離婚時に退職金の財産分与は受けられるのか? 条件・計算方法などを解説

法律相談

夫婦が離婚する際には、将来もらえる退職金も財産分与の対象になる可能性があります。

配偶者が多額の退職金を受け取る見込みの場合は、退職金の財産分与を忘れずに請求しましょう。

今回は、離婚時における退職金の財産分与について、夫の退職金は妻の取り分はないのか、払いたくない、渡さない場合はどうするのか、独り占めする場合はどうするのか、不当に取られないようにするにはどうするのか、条件や計算方法などを解説します。

夫と離婚する場合、退職金の財産分与は受けられるのか?

夫婦が離婚する際には、共有財産を公平に分ける「財産分与」を行います(民法768条1項、771条)。

将来もらえる退職金についても、財産分与の対象になる場合があります。ただし、退職金の財産分与の可否および金額は、具体的な事情によって結論が異なる点にご注意ください。

退職金も財産分与の対象になり得る

財産分与の対象となるのは、原則として婚姻期間中に夫婦いずれかが取得した財産です(民法762条2項参照)。

会社などから支給される退職金は、賃金の後払い的な性質を有しています。婚姻期間中における勤務期間に対応する退職金額は、婚姻期間中の労働によって稼いだものと評価すべきであるため、財産分与の対象になり得ると考えられます。

退職金の財産分与の可否に関する判断基準

ただし退職金が未支給の場合、実際に支給される退職金額を離婚時に確定することはできません。勤務状況によっては、退職金が全く支給されないこともあり得ます。

そのため、退職金の支給時期が相当先である場合は、退職金の財産分与が認められない可能性が高いです。退職金の財産分与の可否は、退職金規程の内容を踏まえつつ、勤続年数や退職金の支給時期などから総合的に判断されます。

なお、勤務先に退職金規程がなく、労働契約においても退職金の支給が定められていない場合、会社は従業員に対して退職金を支給する義務を負いません。この場合、退職金の財産分与を受けることはできないのでご注意ください。

退職金全額が財産分与の対象とは限らない

退職金の財産分与が認められるとしても、支給が見込まれる退職金の全額が財産分与の対象になるとは限りません。財産分与の対象になるのは、あくまでも婚姻期間中の労働に対応する退職金額のみです。

詳しい計算方法は次の項目で解説しますが、完全に勤続期間が婚姻期間に含まれている場合を除いて、財産分与の対象となる退職金額は一部のみとなることに注意が必要です。

退職金の財産分与額の計算方法

以下の3つのパターンについて、退職金の財産分与額の計算方法を紹介します。

  • ①すでに退職金が支払われている場合の計算方法
  • ②退職金がまだ支払われていない場合の計算方法
  • ③別居期間がある場合の計算方法

すでに退職金が支払われている場合の計算方法

すでに退職金が支払われている場合は、実際に支給された退職金のうち、婚姻期間に対応する金額が財産分与の対象となります。

財産分与の対象となる退職金額=支給額×婚姻期間÷退職金の計算期間

(例)
退職金額:2,000万円
婚姻期間:30年
退職金の計算期間(勤続期間):40年
財産分与割合:2分の1ずつ

妻の取り分
=2,000万円×30年÷40年×2分の1
=750万円

ただし、夫婦の生活費等として退職金を費消した場合は、残っている金額のみが財産分与の対象となります。

退職金がまだ支払われていない場合の計算方法

退職金がまだ支払われていなくても、将来において退職金を受け取れることがほぼ確実である場合は、退職金の見込み額が財産分与の対象となります。

退職金の見込み額の計算方法については、主に以下の2つの考え方があります。

①現時点で退職したと仮定して計算する
→幅広いケースに適用可能な考え方です。
財産分与の対象となる退職金額
=現時点で退職した場合の支給見込み額×婚姻期間÷退職金の計算期間
②定年退職時の支給見込み額を基に計算する
→勤続年数が長期かつ定年が近く、定年退職まで継続勤務することが確実と思われる場合などに適用可能です。
財産分与の対象となる退職金額
=定年退職した場合の支給見込み額×ライプニッツ係数※×婚姻期間÷退職金の計算期間

※ライプニッツ係数:現在において受け取る金銭と、将来において受け取る金銭の価値の違いを調整するための係数です。離婚時から定年退職までの年数に応じたライプニッツ係数を用いて、将来もらえる退職金を現在の価値に換算します(=中間利息の控除)。

参考:就労可能年数とライプニッツ係数表|国土交通省

いずれの考え方を採用する場合でも、勤務先の退職金規程を参照して、合理的に金額を算定する必要があります。

別居期間がある場合の計算方法

離婚成立前に別居期間がある場合、その期間の労働に対応する退職金は、財産分与の対象外となります。夫婦の経済的協力関係は、別居によって途絶または終了すると解されるためです。

この場合、上記の各計算式において、婚姻期間の代わりに「婚姻期間-別居期間」を用いて、財産分与の対象となる退職金額を計算します。

離婚時の退職金の財産分与についてよくある質問

離婚時の退職金の財産分与について、よくある質問への回答をまとめました。

Q1 夫が公務員か会社員かは、退職金の財産分与に影響する?
Q2 退職金の財産分与を請求するタイミングは?
Q3 退職金の財産分与を拒否された場合の対処法は?

夫が公務員か会社員かは、退職金の財産分与に影響する?

一般的に公務員は、会社員に比べて雇用が安定しているため、退職金の財産分与が認められやすい傾向にあります。

ただし退職予定時期がまだ相当先の場合は、公務員であるか会社員であるかにかかわらず、支給の確実性が認められないことを理由に、退職金の財産分与が否定される可能性が高いでしょう。

退職金の財産分与を請求するタイミングは?

退職金の財産分与は、離婚時に併せて請求するのが一般的です。合意が成立しない場合は、離婚調停や離婚訴訟を通じて引き続き請求します。

離婚時に合意しなかった場合でも、その後財産分与について話し合うこともできます。合意できない場合は財産分与請求調停を申し立てますが、離婚後2年間が期限となっている点にご注意ください。

「払いたくない・渡さない」退職金の財産分与を拒否された場合の対処法は?

夫が退職金を独り占めしようとして、また払いたくないと言って、財産分与を拒否している場合は、法的手続きによって退職金の財産分与を請求しましょう。

具体的には、以下の手続きを利用することが考えられます。

①離婚調停
調停委員の仲介により、離婚条件を話し合う手続きです。財産分与の条件についても話し合うことができます。

参考:夫婦関係調整調停(離婚)|裁判所

②離婚訴訟
裁判所に対して離婚を認める判決を求める手続きです。離婚を認める判決が言い渡される場合は、その主文の中で財産分与の条件も示されます。

参考:離婚|裁判所

③財産分与請求調停
離婚後に財産分与について話し合う手続きです。調停が不成立となった場合は、家庭裁判所が審判によって結論を示します。
離婚後2年が経過すると、調停申立てができなくなる点に注意が必要です。

参考:財産分与請求調停|裁判所

これらの法的手続きへの対応には、慎重な検討と専門的知識を必要とします。弁護士に依頼すれば、各手続きの準備や対応を一任できます。

配偶者との離婚を検討している方、退職金を独り占めして渡さないと言っている夫をお持ちの方など、より良い条件による離婚を目指したい方は、お早めに弁護士までご相談ください。

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