先ごろ国会で民法が改正され、共同親権制度が導入されました。
この制度に関しては、制度の内容が詳しくわからない、DV夫と離婚しても単独親権にできないのかといった疑問や不安が大きいと考えられます。
そこで今回は、共同親権制度について詳しく解説していきます。
離婚後の「共同親権」導入改正案が成立
先ほども述べたように、2024年5月、国会で民法改正が成立し、共同親権制度が導入されることとなりました。
以下では、共同親権制度の概要といつから制度が施行されるのかについて解説します。
共同親権とは|改正民法はいつから
共同親権制度の概要
共同親権制度は、一言でいうと、「未成年の子がある夫婦が離婚した場合、協議により、双方による共同親権を選択することもできる」というものです。
もう少し詳しく見ていくと、以下のような内容になります。
- 原則として、協議により、離婚後の子の親権を夫婦の双方が有する共同親権にすることも、夫婦のいずれかのみが有する単独親権にすることもできる。
- ただし、夫婦の一方に虐待やDVの恐れがある場合には、裁判所の判断で単独親権となる。
- 夫婦間で単独親権にするか共同親権にするかの合意ができない場合には、家庭裁判所が判断する。
また、共同親権になった場合には、子どもの進学(学校の選択を含む)や転居
などについて、夫婦が話し合いをして決めなければならず、夫婦間で合意ができない場合には裁判所が判断することとなります。
一方、身の回りの世話や習い事などの「日常の行為」や緊急手術などの「急
迫の事情がある」場合には、どちらか一方の親(たいていは、実際に子どもを監護している親になると推測されます)が親権を単独で行使できるとされています。
改正民法はいつから
共同親権制度は成立時に2年以内に施行すると定められました。おそらく、2026年6月までに施行されることになると考えられます。
共同親権のメリット
一般的には以下の点が、共同親権のメリットと言われています。
離婚時の親権争いが緩和される
現在は、離婚後は一方の親による単独親権とされており、そのために、離婚時に夫婦がどちらが子どもの親権を取得するかでもめて紛争が激化し、それが子どもに影響して、子どもが精神不安定になるといわれています。
共同親権制度の導入により、このような親権争いが緩和され、子どもの精神的な不安も和らぐことが期待されています。
離婚後の面会交流や養育費の支払いがスムーズになる
現在の単独親権制度の下では、親権を有する親が別居親に対して、子を面会交流させない、親権者と別居親の間で面会交流に関する意見が合わずトラブルが起きるということも良くあります。
共同親権になれば、離婚後も共同で子を育てていくことになるため、面会交流がスムーズに実施されるようになることが期待されています。
また、単独親権制度の下では、別居親が無責任になり、親権者に対して養育費をきちんと支払わないことも良くあります。こういった問題も解消されることが期待されています。
子どもの健全な成長が期待できる
共同親権下においては、子どもが離婚後も夫婦の双方から愛情を受けることができ、健全に成長していくことが期待されています。
共同親権のデメリット・反対意見もある
共同親権制度にはメリットがあるといわれている一方で、デメリットも大きく、根強い反対意見も存在しています。
以下ではその点について解説します。
DVや虐待の被害者が加害者に支配から逃れられない
単独親権であれば、DVや虐待の被害に遭った夫婦の一方と子どもは、加害者から逃げて、離婚後、親権を取得すれば、相手の支配を受けずに生活することが可能です。
しかし、共同親権の場合、進学や転居について原則として常に元夫婦の協議が必要となるため、被害者は加害者から逃れることができなくなるけねんがあるとして記されています。
先に解説したように、DVや虐待がある案件では、裁判所の判断で単独親権にしなければならないとされています。
しかし、DVや虐待は客観的な証拠が残りにくく、証拠を残さないように巧妙に加害行為を続ける者も少なくありません。
そのため、裁判所が証拠を重視して、DVや虐待の有無を判断する場合には、DVや虐待が認定されずに共同親権となり、上記のような状況が続く懸念があるといわれています。
両親の教育方針が対立し、意思決定が難航する
単独親権では、子どもの教育に関する事項について親権者が単独で決めることができたので、スムーズな意思決定ができました。
ですが、共同親権になると、進学の問題などについて常に両親が話し合わねばなりません。教育方針に食い違いがある場合には、スムーズな意思決定ができず、子どもに大きな不利益を与えかねないと指摘されています。
実はメリットがない
先ほど、共同親権制度のメリットをいくつかご紹介しましたが、実際にはそのようなメリットはないのではないかと言われています。
親権争いはなくならない
そもそも、離婚する夫婦が共同親権で合意できるケースがそれほど多くないと思われます。
離婚する人の多く(少なくとも一方)は、離婚後に相手と関わるなんてまっぴらごめんだと考えているでしょう。
そうであるにもかかわらず、共同親権となって、進学や転居について、いちいち相手の同意を取り付けなければならないなんて、なんのために離婚したのかわからないといえます。
そうすると、離婚される方が共同親権を望んでも離婚する方は単独親権を望むというケースが相当程度生じることとなり、これまでの「親権者をどちらにするか」という争いは、「共同親権にするか単独親権にするか」という争いに変わるだけになります。
「共同親権」に合意できない夫婦や元夫婦(注:民法改正後は親権について取決めがなくても係争中であれば離婚できます)に対して、裁判所が共同親権を命じることができるかについても、大きな疑問があります。
実際は、裁判例の積み上げを見て行かねばならないところですが、少なくとも「親権争いが減る」というメリットはそれほどないとも考えられます。
面会交流や養育費に関するトラブルもなくならない
共同親権制度が導入されても、実際に子どもを監護するのはどちらか一方となります。
そうすると、子どもを監護する親が会わせたくないと思えば面会交流はなかなか実現されないでしょう。
また、別居親に支払い意思がなければ、親権者であったとしても養育費の支払いをするとは限りません。
面会交流や養育費の問題は、親権の問題とは全く別な問題であり、共同親権にしたからといって、解決するわけではないとも言われています。
共同親権でよくある質問
以下では、共同親権制度に関してよくある質問について解説します。
共同親権は再婚・養子縁組をしたい場合どうなるの?
離婚後共同親権を選択した元夫婦の一方が再婚して、再婚相手と子の間で養子縁組をすることはできるのか、という問題があります。
この場合、子が15歳以上であれば、自ら養子縁組をすることができますが、15歳未満の者が養子縁組をする場合には、原則として父母両方の同意が必要です。
そして、子の看護をしている親が、子の利益のために必要であるにもかかわらず縁組に同意しない場合には、家庭裁判所が法定代理人(通常はもう一方の親)の請求により、同意に変わる許可を与えることができるとされています。
共同親権は、既に離婚している場合はどうなる?
共同親権制度施行前に離婚して単独親権となっている元夫婦についても、制度施行後に家庭裁判所に共同親権の申立てを行い、これが認められれば共同親権となります。
まとめ
今回は新たに導入される共同親権制度について解説しました。
メリットもあるとされている一方、大きなデメリットや懸念も指摘されており、スムーズに運用されるのかどうか疑問が大きいと言わざるを得ません。
家庭裁判所に共同親権制度に関する事件が多数持ち込まれることになるのは明らかです。家庭裁判所がどのように制度を運用していくのか、今後も追っていく必要があります。