18歳未満の子供がいる夫婦が離婚する場合、親権者を父母のいずれかに定める必要があります。
協議で離婚後の親権者を決められなければ、家庭裁判所が親権者を決定します。子供の年齢が高ければ高いほど、家庭裁判所は子供の意思を尊重する傾向が強くなります。
そのため、子供の親権者となることを希望する場合は、子供との間で良い関係を築いておくことが非常に重要です。
本記事では、家庭裁判所が離婚後の親権者を決定する際、子供の意思がどのように反映されるのかについて解説します。
離婚後の親権者を決定する際の判断基準
離婚後の親権者は、子の利益を最も優先して考慮した上で決定すべきとされています(民法766条1項)。家庭裁判所は、さまざまな事情を総合的に考慮して、父母のどちらが親権者にふさわしいかを判断します。
一般に、家庭裁判所が親権者を決定する際には、以下の4つの要素を中心に検討していると考えられています。
- 継続性の原則
子供の養育に主として関与していた側を、引き続き親権者とするという考え方です。 - 兄弟姉妹不分離の原則
情操教育の観点から、兄弟姉妹の親権者は同じとすることが望ましいという考え方です。 - 子の意思尊重の原則
子供の意思を尊重して、子供が希望する親を親権者とすべきという考え方です。後述するように、子供の年齢が高ければ高いほど、子供の意思が尊重される傾向が強くなります。 - 母性優先の原則
子供のとっての母性の重要性に鑑み、母親を親権者とすべきという考え方です。特に子供の年齢が低い場合は、母性優先の原則が考慮されることがあります。ただし、近年では男女同権・男女共同参画が浸透したため、母性優先の原則の重要性は後退したとの考え方も有力です。実際上は母親が親権者とされるケースが多くなっていますが、母親の方が父親よりも、子供の養育に関与する時間が長い傾向にあることが主な理由と考えられます(=継続性の原則)。
離婚後の親権者を決める際、子供の意思はどの程度重視されるのか?
家庭裁判所が離婚後の親権者を決める際には、子供の意思を考慮することがあります。子供が父親を希望していれば父親に、母親を希望していれば母親に親権が与えられる可能性が高くなります。
一般的に、子供の年齢が高ければ高いほど、家庭裁判所は子供の意思を考慮して親権者を決定する傾向が強くなります。
子供が0歳~10歳の場合
低年齢の子供は、主体的に意見を述べる能力が十分に育っていないと考えられます。
そのため、家庭裁判所が親権者を決定するに当たって、低年齢の子供の意思はあまり重視しない傾向にあります。
おおむね3歳以下の子どもは、十分に論理立てて話すことはできないのが通常です。
4歳、5歳、6歳、7歳くらいになると、ある程度自分の意見を論理的に話せるようになりますが、親の影響を受けやすいため、親権者にふさわしくない親に丸め込まれてしまうおそれがあります。
8歳、9歳、10歳くらいになれば、子供によっては、主体的な意見を論理的に述べることができるようになるでしょう。このくらいの年齢の子供については、家庭裁判所が子供の成育状況を鑑みて、親権者の決定に際して子供の意見を取り入れる場合があります。
子供が11歳~14歳の場合
子供が小学校高学年(11歳、12歳)や中学生(13歳、14歳)になると、多くの場合は情緒も落ち着き知能も発達して、主体的に意見を述べる能力が身に付きます。
そのため、11歳から14歳程度の子供に対しては、親の離婚後の親権者を決めるに当たって、家庭裁判所が意見を聴くケースが多いです。
前述のとおり、子供の意思だけで親権者が決まるわけではありません。特に過去の養育の実績(=継続性の原則)は、親権者を決定する上で非常に重要な要素です。
しかし、子供の年齢が高くなってくると、継続性の原則と並んで、子供の意思が親権者の決定に当たって重要な考慮要素になってきます。特に子供が中学生に達していれば、子供の意思を重視して親権者が決定される可能性が高いでしょう。
子供が15歳以上の場合
子供が15歳、16歳、17歳に達している場合、自分の意見を主体的に述べる能力が、大人に近い水準で育っていることが多いです。
裁判所が15歳以上の子供の親権者を決定するに当たっては、その子供の陳述を聴かなければならないとされています(家事事件手続法152条2項、169条2項、人事訴訟法32条4項)。
これは、15歳以上の子供は十分成熟しているため、親権者の決定に当たって子供の意思を尊重すべきという考え方によるものです。
実務上も、15歳以上の子供の親権者を決定する際、裁判所は子供の意思を強く重視する傾向にあります。
親権争いにおいて重要となる、家庭裁判所調査官の調査
親権の帰属が争われている離婚事件については、家庭裁判所調査官による調査が行われます。
家庭裁判所調査官は、家庭訪問などを行って、子供の養育状況を確認します。また、子供との面談も実施し、親との関係性や、どちらの親と一緒に住みたいかなどについて質問を行います。
調査結果は、家庭裁判所調査官が報告書にまとめて、家庭裁判所に提出します。報告書では、子供の養育状況や意思の内容に関する記載に加えて、どちらの親が親権者にふさわしいかについて、家庭裁判所調査官としての意見が述べられます。
家庭裁判所は、離婚後の親権者を決定するに当たり、家庭裁判所調査官の報告内容を重視する傾向にあります。
離婚後の親権を獲得するためには、家庭裁判所調査官による調査に備えて、子供の養育へ積極的に関わり、子供との間で良好な関係性を築くことが重要です。
まとめ
家庭裁判所は、離婚後の親権者を決定するに当たり、子供の意思を一つの考慮要素としています。子供の年齢が高ければ高いほど、家庭裁判所は子供の意思を重視して親権者を決定する傾向にあります。
離婚後に親権者となることを希望する場合は、子供との良好な関係性を築くことが非常に重要です。普段から子供とよくコミュニケーションを取っている側が、親権争いにおいても有利な立場になるといえるでしょう。
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