養育費が不払いとなった場合|強制執行・差し押さえで回収できる!?

法律相談

離婚時に養育費について取り決めをしていたとしても、「途中で払ってもらえなくなるのでは」と不安を抱える女性は多いでしょう。実際、最初の数カ月のみ支払い、あとは勤務先や住所などを無断でかえて不払いになる男性もいます。

親である以上、離婚したとしても子どもを扶養する義務があります。養育費は子どもの権利であり、母子家庭の子育ての大切な資金です。養育費の未払いや不払いに泣き寝入るのではなく、なんとか強制執行で差し押さえて回収できないでしょうか。

養育費が不払いとなった場合の回収方法を詳しく解説します。

養育費の未払いと法律

 養育費の未払いとは

養育費とは、子どもの養育に必要な費用のことです。

離婚時に未成年の子どもがいる場合、夫婦のどちらかが親権者となり、養育を行うことになります。養育をしない方は養育を行う方に対して、子育てに必要なお金を支払わなくてはいけません。たいていは母親が子どもを引き取るため、父親が毎月決まった額の養育費を母親の口座に振り込むケースが多いです。養育費の金額や支払い方などは、離婚時に夫婦で話し合って決めます。

ときどき「あいつのお金なんていらないから、養育費つっぱねてやったわよ!」などという方がいますが、それは違います。養育費は子どもの権利です。よりよい環境でよりよい教育を受けるために、養育費は必要なお金です。

また、民法上、親には子どもの扶養義務があります(民法877条)。離婚したとはいえ、親であることに変わりはありません。親の義務として、子どものために養育費の支払いと受け取りを行いましょう。

養育費の支払いを約束したのに支払わない父親もいます。これが養育費の不払い・未払いと呼ばれる問題です。

夫婦で話し合った約束を破るのはいけませんし、民法の扶養義務に違反していることにもなります。なにより子どもがかわいそうです。養育費の不払い・未払いは決して許されてはいけません。

養育費の未払いに罰則はあるか

養育費の未払いは許されてはいけない問題であるにもかかわらず、民法上、罰則はありません。実際、母子家庭のうちの56%は養育費を受けたことのないというデータもあります※1

半数以上のシングルマザーが養育費を受け取れていない原因は、養育費の取り決めをせずに離婚してしまう人がいることと、養育費の未払い問題にあるといわれています。

養育費請求権の時効

養育費の請求権に時効はありません。養育費は親の扶養義務から法律上当然に生じる債権であり、親子関係がある限り時効にはなりません。

養育費取得のためには事前対策が重要

養育費請求権に時効がないとはいえ、養育費を取得するためには事前準備が必要です。

まず、離婚の条件は口約束で済ませずに必ず書面にしましょう。口約束では言った言わないの争いになり、うやむやにされるおそれがあります。

さらに強制執行認諾文言付きの公正証書化しておけば、相手側に不払い・未払いがあった際に養育費の回収が容易になります。

養育費を払わせる方法|差し押さえ・強制執行までの流れ

元夫が養育費を払わない場合は、差し押さえで強制的に支払わせることができます。差し押さえまでの流れをみていきましょう。

滞納|元夫が逃げる・期日を守らない

元夫が養育費の期日を守らなかったり逃げたりして養育費を滞納した場合、まずはよく話し合いましょう。支払いが滞っている原因を聞き、元夫の生活状況が変わったなど再度協議する必要があるかを確認します。たとえば元夫が交通事故などで一時的に働けない場合や、再婚して経済的に厳しくなった場合などは、支払いの猶予や減額を話し合うことになります。

特に理由のない不払いであっても、元夫が無職・無収入の場合は強制執行をかけたとしても、十分に養育費を回収することが期待できません。この場合は、養育費の減額交渉をするか、再就職まで待ちましょう。

催告書|内容証明郵便で送付

元夫の状況的に強制執行による回収ができそうな場合は、差し押さえの手続きに入ります。まずは内容証明郵便で催告書を送付しましょう。

内容証明郵便とは、どのような内容の文書を誰から誰に送ったのかを証明できる郵便のことです。郵便局の窓口で誰でも簡単に送ることができます。

内容証明郵便は次の3つを証明する効果・効力があります。

  • いつ催告書を送ったのか
  • 催告書の内容
  • 元夫が催告書を受け取ったこと

内容証明郵便で送ることで、「催告書なんて知らない」「受け取ってない」という言い訳を封じることができるのです。

履行勧告・履行命令の制度を利用

催告書を送っても不払いが続いた場合は、履行勧告・履行命令を行いましょう。

履行勧告・履行命令は家庭裁判所の制度のひとつで、調停や審判などの取り決めを守らない人に対して、それを守るよう家庭裁判所が説得や勧告をしてくれます。

履行勧告・履行命令は無料でできますが、相手が応じない場合は支払いをうけることができません。

また、履行勧告・履行命令の利用には条件があります。離婚の条件を口約束や公正証書、単なる誓約書で約束した場合は利用できません。家庭裁判所の調停や審判を使って、養育費の取り決めをしている必要があります。

裁判所へ差し押さえを申し立てる

履行勧告・履行命令が利用できない場合や履行勧告・履行命令をしても支払いがうけられなかった場合には、いよいよ強制執行です。裁判所に差し押さえを申立てましょう。

差し押さえをするには、次の条件を満たさなくてはいけません。

  • 債務名義を取得していること
  • 相手の住所、差し押さえ先(勤務先、預金)を把握していること

債務名義とは、権利義務関係の存在を証明する書類のことです。養育費の取り決めについて書かれている確定判決・仮執行宣言付与判決・仮執行宣言付支払督促・和解調書・調停調書・強制執行認諾文言付きの公正証書のいずれかが必要です。

また、元夫の住所や差し押さえ先(勤務先、預金)を特定しておかなくてはいけません。強制執行では給与または預貯金口座を差し押さえることができますが、どの給与や預貯金口座から支払いをうけるのか、申し立てる側で特定しておく必要があります。裁判所は調べてはくれません。元夫の勤務先または預貯金口座のある銀行名と支店名を、自力で把握しておきましょう。

申立てには、次の書類が必要です。

  • 債権差押命令申立書
  • 債務名義または公正証書
  • 債務名義(公正証書)の送達証明書
  • 戸籍謄本(全部事項証明書)等
  • 住民票等
  • 代表者事項証明書

(詳細は、債務名義の種類や債権者と債務者の具体的事情によって異なります。裁判所でご確認ください)

以上の書類に収入印紙4,000円分と連絡に必要な切手を添えて、裁判所の窓口に提出しましょう。

申立て先は元夫の現住所地を管轄する地方裁判所です。

裁判所からの差し押さえ申立が成立

提出した書類に不備がなければ、申立て成立です。裁判所は元夫と元夫の勤め先や預貯金口座のある金融機関に対して、差押え命令の発令と差押え命令正本を送付します。

請求した本人にも、送達通知書、陳述書が裁判所から送られてきます。

取り立てを行う

養育費の取り立ては、元夫の給与や預貯金口座から直接、自分の口座に振り込みをうけて行います。元夫の勤務先や口座のある金融機関などの差し押さえ先に、振り込んでほしい口座を内容証明で伝えると養育費を受け取ることができます。

民事執行法の改正2019|「逃げ得」に歯止め

現行法上、差し押さえを行うには相手の勤め先や銀行口座などを特定する必要があります。離婚した後もこのような情報を交換し合っている夫婦は少なく、連絡なく引っ越すなどされてしまうと、もう手の出しようがありません。約束したはずの養育費を支払わないだけでなく、強制執行からも逃げることさえできてしまうのが現状です。

「逃げ得」ともいえる現状を打開するため、民事執行法の改正が決まりました。

新しい民事執行法では相手の情報の特定というハードルが取り払われます。債務名義に基づいて申し立てれば、相手の口座や勤務先の情報を金融機関や自治体などから取得できるようになります。

まとめ

養育費の未払い・不払いを不安に思う女性は多いです。未払いの場合は強制執行を申し立て、相手の給与や預貯金口座を差し押さえることができます。しかし、差し押さえには相手の勤め先や口座のある金融機関といった情報を自力で特定する必要があり、現状では高いハードルになっています。そのため改正民事執行法では、相手の情報を金融機関や自治体から取得できるようになります。

 

【参考】

※1 厚生労働省 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000188168.pdf

 

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