離婚時に、親権争いで母親が有利なケース・負けるケースとは?

法律相談

夫婦が離婚をする場合、子どもの親権をどちらが得るかが非常に重要な問題になります。

母親としては、目に入れても痛くないほどかわいがって育ててきた子どもの親権は、ぜひとも手に入れたいところでしょう。

しかし、親権をどちらが取るかは、家庭裁判所がさまざまな事情を考慮して決定することになります。

どのようなケースで母親に親権が認められ、またどのようなケースでは認められないのでしょうか?

この記事では、離婚時の親権争いで母親が有利なケースや、負けてしまうケースについて、法律的な視点から解説します。

離婚で問題になる「親権」問題とは

まず、親権とは何か、また親権者はどのように決定されるかという基本的なところを解説します。

親権とは?

親権とは、子の利益のために子の監護および教育をする権利をいいます(民法820条)。

結婚している間は夫婦の両方に子に対する親権があります(民法818条3項)。

しかし離婚をする場合には、それ以降は夫婦のどちらか一方のみが子に対する親権を行使することになります(民法819条1項)。

離婚後の親権者は「子の利益」を最も重視して決定される

離婚後の親権者は、まずは夫婦間の協議によって決定されます(民法819条1項)。

しかし、協議が調わない場合には、家庭裁判所による審判や判決によって親権者が定められます(民法819条2項、5項)。

家庭裁判所が親権者を定める際に、最も重視するのは「子の利益」です(民法819条6項、766条1項)。

つまり家庭裁判所は、子どもにとってどちら親と一緒に暮らしていくのが幸せかということを、様々な事情を総合的に検討して判断することになります。

親権争いで母親が有利なケースとその理由

一般的には、親権争いは母親が有利なケースが多いとされています。

その理由や具体的に考慮される事情について見ていきましょう。

9割のケースで母親に親権が認められている

平成30年度の司法統計によると、家庭裁判所が取り扱った離婚調停事件のうち、親権者の決定が行われたものは全部で20,061件です。

そのうち、母親に親権が認められたケースは18,713件であり、実に9割以上に上ります。

 

このように、現実には大部分のケースにおいて、母親に親権が認められているということができます。

親権争いで重視される4原則

家庭裁判所が親権者を決定するに当たっては、4つの原則が重視されるといわれています。

これらの原則の観点から、母親が親権争いにおいて有利となる理由を見ていきましょう。

①母親優先の原則

乳幼児や幼い子ども(おおむね10歳以下)については、母親による監護の必要性が高いため、母親に親権を認めるという原則です。

したがって、子どもの年齢が低い場合には、母親が親権争いで有利になる傾向があります。

②継続性(現状維持)の原則

離婚前後で子どもの生活環境を大きく変えないようにするため、これまで子どもを監護してきた親に親権を認めるという原則です。

日本では、母親が出産直後から子どもが大きくなるまで、父親よりも子どもと一緒に過ごす時間が多い家庭が多数派です。

その場合、継続性の原則の観点から、母親が親権争いで有利になります。

③兄弟姉妹不分離の原則

兄弟や姉妹がいる場合、人格形成の観点からは兄弟姉妹と一緒に育つことが望ましいため、どちらか一方の親に複数の子どもの親権を集中させるという原則です。

もし他に母親と一緒に暮らすべきと判断されそうな子(乳幼児など)がいる場合には、他の子どもの親権争いに関しても、母親が有利になる可能性が高いでしょう。

④子どもの意思尊重の原則

子どもの年齢が高い場合には、親権者の決定に当たって子どもの意思を尊重するという原則です。

よって、子供の年齢が高い場合、子どもが母親と一緒に暮らしたいと言ってくれるかどうかが重要なポイントになるでしょう。

母親が親権争いに負けてしまう理由・不利になる理由とは?

このように、母親は親権争いで有利な立場にあるケースが多いといえますが、実際には母親が親権争いに負けてしまうケースも存在します。

どのような場合に母親の親権が認められないのかについて解説します。

子どもに暴力を振るっていた場合

母親に親権が認められない典型的な例は、母親が子どもに対して日常的に暴力を振るっていた場合です。

このような場合は子どもの精神衛生上・教育上の観点から、母親と一緒に暮らすことが不適当と判断される可能性が高いでしょう。

借金がある場合

母親に借金がある場合には、母親の経済状況に問題があり、子どもを養う能力に疑問符があると判断され、親権が取れない可能性があります。

もし父親が経済的に安定している場合には、母親は親権争いにおいて不利になってしまうでしょう。

精神疾患などの重大な病気を患っている場合

母親が重大な病気を患っている場合、子どもの養育環境は不安定と言わざるをえません

この場合にも、母親の親権者としての適性に疑問符が付く可能性が高いでしょう。

育児放棄の過去がある場合

母親に育児放棄(ネグレクト)の過去がある場合には、今後も同じことを繰り返すのではないかという疑いの目が向けられるのは致し方ありません

このような場合、母親は親権争いにおいて著しく不利になってしまうでしょう。

育児に協力してくれる人がいない場合

離婚後のワンオペ育児は非常に大変なので、協力者がいることが望ましいと考えられます

母親側の祖父母が遠方に住んでいるなどの理由で育児の協力者がおらず、一方で父親側は祖父母の協力を得られるなどの事情がある場合には、母親は親権争いにおいて相対的に不利な立場に置かれてしまいます。

子どもが父親と暮らしたいと言っている場合

子どもの年齢が高い場合には、親権者の決定には子どもの意思も非常に重視されます(子どもの意思尊重の原則)。

年齢が高い子どもが父親と一緒に暮らしたいと言っている場合には、家庭裁判所としてもその意思を尊重して、父親に親権を認める方向に傾くでしょう。

不貞行為をしていた場合は?

なお、母親が不貞行為を行って離婚の原因を作った場合、親権が母親に認められにくくなるように思われるかもしれません。

しかし、親権者は子どもにとってどちらと一緒に暮らすのが幸せかを重視して決定されます

したがって、不貞行為が子どもに悪影響を与えたといえる場合でなければ、不貞行為を行った側に親権が認められることもあります。

ただし、不貞行為をするために育児放棄をしたり、家に不倫相手を連れ込むことで子どもが傷ついたりしたような場合には、母親に親権が認められない可能性が高いでしょう。

親権を取るための離婚調停のポイント

離婚調停で母親が親権を認めてもらうために、離婚調停の場で主張すべきことや、逆にやってはならないことについて解説します。

離婚調停で主張すべき事項

離婚調停で母親が主張すべき事項の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 現在子供と同居しているという事実
  • 母親が中心となって子育てをしてきた事実
  • 今後も育児に時間を割くことができること
  • 親族や友人から育児についての協力を得られること
  • 子どもの居住環境について(転校の必要がないことなど)
  • 子どもに対する愛情の度合い
  • 面会交流を円滑に行う意思
  • 財産や収入について(子どもと一緒に生活するために必要な収入が得られること)

こうした事実を、調停の場で客観的な証拠によって証明できれば、母親にとって非常に有利に働きます。

なお、親権者の決定は母親と父親の比較によって行われますので、父親の側に有利な事情がある場合には、それを上回る説得性をもって主張を展開する必要があります

親権獲得のためにしてはいけないこと

逆に、親権獲得のために意識して避けるべきことは、次のとおりです。

①子どもに対して相手の悪口を言う、子どもの意思を誘導する

相手の悪口を子どもに直接言ったり、「母親と一緒にいたい」と無理やり言わせたりすることは、子どもにとってストレスになることがほとんどです

裁判所の印象も悪くなってしまう可能性がありますので、極力避けましょう。

②個人的な気分で面会交流を拒絶する

自分が子どもを相手に会わせるのが嫌だからという理由だけで面会交流を拒絶するのは、子どもの意思を尊重しない不適切な行為といえます。

相手にDVの傾向があったり、子どもが本気で嫌がったりしている場合は別ですが、そうでなければ、なるべく面会交流に応じることが求められます。

まとめ

母親側が離婚後の親権を認められやすいことは事実ですが、事情によっては母親が親権争いで不利になってしまうケースもあります。

そのため、離婚調停で親権を獲得するためには、弁護士に相談して事前の準備をしっかり行うことをおすすめします。

離婚問題・親権問題でお悩みの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

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