不倫相手から求償権を行使されたら拒否できるか?

法律相談

性的関係を持った男女のいずれか、または両方が既婚者の場合、不倫問題が発生します。不倫の当事者は、被害者に対して慰謝料を支払わなければなりません。

被害者に対する慰謝料の支払いが済んだ後、不倫の当事者間では「求償権」の行使が問題となる場合があります。

不倫相手から求償権を行使された場合、拒否して払わないなんてことはできるのでしょうか。また、不倫相手の求償権行使に備えて、事前にどのような対策を講ずべきなのでしょうか。

今回は、不倫で問題になり得る「求償権」について、法律上のルールや対策などを解説します。

不倫で問題となる「求償権」とは?

不倫の当事者として自ら慰謝料を支払い、または不倫相手が慰謝料を支払った場合には、不倫相手との間で「求償権」の問題が発生します。

不倫の当事者は、被害者に対して共同で慰謝料を支払う

夫婦には互いに、配偶者以外の者と性的関係を持たない貞操義務があります(民法770条1項1号参照)。

そのため、配偶者以外の者と性的関係を持つこと(=不倫、不貞行為)は、配偶者に対して違法に精神的損害を与える「不法行為」に該当します(民法709条)。不法行為が成立する場合、加害者は配偶者に対して慰謝料を支払わなければなりません。

また、加害者の配偶者との関係では、不倫相手も加害者の「共同不法行為者」に当たります(民法719条1項)。共同不法行為者である加害者と不倫相手は、配偶者に対して、連帯して慰謝料を支払う義務を負います。

なお、不倫の当事者双方が既婚者の場合(いわゆる「W不倫」)、双方の配偶者が被害者となりますので、慰謝料の支払い義務も双方の配偶者に対して発生します。

不倫慰謝料は「不真正連帯債務」|請求に応じて全額支払う必要あり

共同不法行為者である不倫の当事者が、被害者に対して負う慰謝料債務は、法律上「不真正連帯債務」と解されています。被害者は、不真正連帯債務を負う不倫の当事者2人のうち、どちらに対して慰謝料を請求するかを自由に選ぶことができます。

不倫の当事者は、被害者に生じた精神的損害の全額を、被害者の請求に応じて支払わなければなりません。後述するように、不倫の当事者間には内部的な負担割合が存在しますが、負担割合を超える請求を受けた場合でも、超過分を含めて被害者に対する支払いを行う必要があります。

負担割合を超えて慰謝料を支払った場合、「求償権」を行使できる

不倫の当事者の間では、責任の程度に応じて内部的な負担割合が存在します。

もし不倫の当事者のどちらか一方が、被害者に対して、自らの負担割合を超えて慰謝料を支払った場合には、もう一方に対して「求償権」を行使できます。

不倫慰謝料の負担割合の決定方法

不倫の当事者間における不倫慰謝料の負担割合は、当事者同士の合意によって決めることができます。

当事者間の合意がない場合には、双方の不倫に関する責任の程度に応じて、客観的な負担割合が決まります。一例として、以下に挙げる要素が負担割合に影響を与えます。

  • 相手が既婚者であることを知っていたどうか、知るきっかけがあったかどうか
  • どちらが性的関係を持つことを誘ったか
  • 不倫の当事者同士の関係性(立場が強い側の負担割合は大きくなる)

など

不倫慰謝料に関する求償権行使の具体例

不倫慰謝料に関する求償権の行使について、以下の設例を用いて計算方法等の考え方を解説します。

  • <設例>
  • AとBは夫婦
  • BとCが不倫
  • AはCに対して、客観的な慰謝料全額に相当する100万円の支払いを請求した
  • Aに対して支払う不倫慰謝料の内部的な負担割合は、B、Cそれぞれ50%ずつ

BとCは共同不法行為者であるため、被害者であるAの請求に応じて、Aに生じた損害全額(100万円)を支払わなければなりません。実際に請求を受けたのはCですから、CはAに対して100万円を支払う必要があります。

その一方で、内部的な負担割合(50%ずつ)に基づいてB・Cが負担すべき慰謝料は、Aに対して支払うべき慰謝料100万円のうち、それぞれ50万円ずつです。

実際には、CがAに対して100万円を支払いますが、これはCの負担割合を50万円上回っています。これに対して、Bは全く慰謝料を支払わないため、Bの負担額よりも実際の支払額が50万円不足している状況です。

そのため、CはBに対して求償権を行使し、50万円の支払いを求めることができます。

払ってくれない!?不倫相手から求償権を行使されたら拒否できる?

不倫相手から求償権を行使された場合、それが客観的な権利に基づくものであれば、原則として拒否することはできません。ただし、求償権に関する不倫当事者間の合意があれば、その合意内容に従うことになります。

求償は原則として拒否できない

共同不法行為者間の求償権は、被害者に対して負担割合を超える損害賠償をしたことをもって、法律上当然に発生します。

したがって、不倫当事者間で別段の合意がない限り、不倫相手による客観的な負担割合に基づく求償を拒否することはできません。求償を強硬に拒否し払わないと、訴訟などに発展する可能性もあるので要注意です。

求償権放棄の合意があれば、求償を拒否できる

ただし、不倫当事者間で求償権を放棄する旨の合意があれば、その合意内容に従い、不倫相手からの求償を拒否できます。

求償権の放棄が行われるのは、主に配偶者と離婚しない場合です。

例えば夫が不倫をしたケースで、妻と離婚しない場合、妻は不倫相手に対してのみ慰謝料を請求するのが一般的ですが、後で不倫相手が夫に対して求償権を行使することが想定されます。夫婦を一つの家計として捉えた場合、慰謝料の支払いを受けた後で、求償によってお金が出ていくのは二度手間です。

そこで、夫婦と不倫相手の三者間で合意書等を締結し、不倫相手が夫に対する求償権を放棄する旨を明記しておきます。その見返りとして、求償に相当する金額を慰謝料から控除すれば、不倫相手から妻に対する一度の支払いのみで慰謝料の精算が完結します。

負担割合についての合意があれば、超過部分の求償は拒否できる

不倫の当事者間で内部的な負担割合を合意していれば、客観的な負担割合にかかわらず、求償権は合意内容に従って発生します。この場合、合意した自らの負担割合を超える部分については、不倫相手からの求償を拒否できます。

あらかじめ内部的な負担割合を合意しておくメリットは、予期せぬ過剰な慰謝料負担を強いられることがない点と、不倫相手との間で訴訟等に発展することを回避できる点です。

不倫慰謝料に関する合意は、書面を作成すべき

配偶者や不倫相手との間で、不倫慰謝料に関して示談その他の合意を締結する場合には、必ず書面を作成しましょう。口約束にとどめず、合意内容を明確に書面へ記載しておくことが、後日のトラブル回避に繋がります。

合意書面の紛争防止効果を確実なものとしたい場合には、弁護士に文案作成を依頼したうえで、公正証書の方式で締結することがお勧めです。適正な内容かつ法的に有効な形で合意書面を作成できるうえ、万が一債務不履行が発生した場合にも、スムーズに強制執行の手続きをとることができます。

まとめ

不倫慰謝料の精算は、不倫当事者間の求償も踏まえたうえで行う必要があります。

適宜弁護士のサポートを受けながら、トラブルの火種が残らない形での不倫問題の解決を目指しましょう。

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