離婚する際に、住宅ローンと養育費の相殺は可能か?注意点を解説

法律相談

持ち家に住んでいる夫婦が離婚をする場合、家や住宅ローンをどうするかが大きな問題となります。

比較的よく見られるのが、夫が住宅ローンを支払う一方で、妻が子どもと一緒に家に住むというパターンです。特に妻が専業主婦の場合には、このような取り決めをするケースがあります。

上記のケースでは、夫は妻に対して養育費の支払い義務を負うと考えられますが、両方支払う場合「きつい」と感じる人もいるでしょう。この養育費の支払いを、住宅ローンの支払いの代わりにする(相殺する)ことはできるのでしょうか?

今回は、離婚時の住宅ローンと養育費の取扱い、考慮して相殺・減額、また公正証書や養育費算定表などについて解説します。

きつい・払えない!住宅ローンと養育費は「相殺」できるか?

養育費の支払い義務を負う側は、後々支払いがきつくなって払えなくなるケースも考えられます。

そのため、住宅ローンと養育費を法的に「相殺」したいと考える人もいるでしょう。以下解説致します。

法律上の「相殺」は不可|養育費は相殺禁止

法律上の「相殺」とは、債務者の一方的な意思表示により、当事者間で対立する2つの債権を打ち消し合うことを意味します(民法505条)。

たとえば、AがBに対して100万円の債務を負うのと同時に、100万円の債権を有しているとします。

この場合、Aが相殺を主張すれば、Aの債権とBの債権は互いに打ち消し合って消滅します。これが法律上の「相殺」です。

しかし結論としては、以下の2つの理由により、養育費請求権と住宅ローン(の求償権)を相殺することはできません。

①養育費請求権を受働債権とする相殺は禁止

「差押禁止債権を受働債権とする相殺」は、債権者に対して対抗できません(民法510条)。
差押禁止債権とは、法律によって差押えが禁止された債権を意味します。養育費請求権などの扶養請求権は、差押禁止債権と解されています(民法881条)。
受働債権とは、相殺を主張する側を債務者とする債権のことです。これに対して、相殺を主張する側を債権者とする債権を「自働債権」と言います。

上記の整理に従うと、養育費の義務者が、養育費請求権を受働債権として他の債権との相殺を主張することは、「差押禁止債権を受働債権とする相殺」に当たります。したがって、養育費の義務者は権利者に対して、養育費請求権と住宅ローン(の求償権)の相殺を対抗できません。

②養育費請求権は子どものもの|対立する債権に該当しない

養育費請求権は子どもが有する扶養請求権の一環であり、権利者である同居親は代わりに受け取っているに過ぎません。
したがって、養育費請求権と住宅ローン(の求償権)は、対立する債権に該当せず、相殺適状の要件を満たさないと考えられます。

養育費の代わりに住宅ローンを支払う合意はできる

法律上の相殺が不可であるとしても、養育費の代わりに住宅ローンを支払う旨を、離婚条件として取り決めることはできます。

そのため後々払えなくなることが考えられる場合、きちんとルールを取り決めておけば、このような合意も一つの選択肢になり得るでしょう。

住宅ローンを支払う場合、養育費を考慮し減額できる?|算定表とは

養育費の金額は、裁判所が公表している養育費算定表に従って計算するのが一般的です。

参考:養育費・婚姻費用算定表|裁判所

しかし、養育費算定表はあくまでも目安に過ぎず、当事者間の合意によって異なる養育費の金額を定めることもできます。

特に、義務者の側が住宅ローンを支払う場合には、月々の支払額を考慮して、養育費をある程度減額することも合理的です。義務者の支払い能力や、想定する生活水準などを考慮して、適切な支払いルールを定めましょう。

離婚をする際、家について考えるべきこと

持ち家に住む夫婦が離婚をする場合、家を手放さずにどちらかが住み続けるか、それとも売ってしまうかは大きな選択になります。

どちらが良いかはケースバイケースですが、特に家を売らない選択肢については、少なくとも以下に挙げる注意点を念頭に置いて慎重にご検討ください。

離婚時に家を売却しない場合の注意点

離婚時に家を売却しない場合、以下のリスクがある点に注意が必要です。

住宅ローンの滞納が発生すると、競売のおそれあり

住宅ローンを支払う側が返済を滞納した場合、金融機関(または保証会社)によって抵当権が実行され、家が競売にかけられてしまいます。

家が競売されると立ち退かなければならないので、住み続ける側としては気を付けなければなりません。

住宅ローン契約への違反に要注意

家の名義を変更する場合や、債務者が家に住まなくなる場合には、住宅ローン債権者である金融機関の同意を得る必要があるのが一般的です。

これらの行為を無断で行うと、住宅ローン契約への違反に該当し、残債の一括返済を求められるおそれがあります。

どうしても上記のような処理が必要な場合には、離婚に関する事情を金融機関に説明して、承諾を得るほかないでしょう。

相手が家を無断で売却する可能性がある

自分が家に住む一方で、相手が家の所有者であり続ける場合、家を無断で売却されてしまう可能性があります。

仮に相手に対して賃料を支払っていない場合、家に住む権利は「使用借権」という取扱いになります。使用借権は転得者に対抗できないため、家を売却されたら出ていかなければなりません。

相手に家を無断で売却されてしまう事態を防ぐためには、離婚に関する合意書の中で売却禁止を定めておくことが重要です。

離婚時に家の売却を検討すべきケースの例

離婚協議の状況・経済状況・不動産市況などによっては、離婚時に家を売却してしまった方がよいケースもあります。特に以下の場合には、家を売却したうえで財産分与を行うこともご検討ください。

①どちらが家に住むかで揉めてしまった場合
どちらが家に住むかについて、夫婦間で意見が激しく対立している場合には、早期に離婚を成立させるために、家を売却することで妥協するのも一つの選択肢です。

②住宅ローンの支払いが高額の場合
養育費の金額相場よりも住宅ローンの支払いの方が高額な場合、家を売却して養育費を通常どおり支払った方が、義務者にとっての負担は軽くなる可能性があります。

③住宅ローンの滞納が不安な場合
家に住み続ける側としては、相手がきちんと住宅ローンを支払うかどうか不安なケースもあるでしょう。滞納によって途中で追い出されることが心配なら、最初から売却した方がよいこともあります。

④不動産の市況が良い場合
離婚時点で不動産市況が好調な場合、家を売却して金銭で財産分与を行った方が、大きな経済的メリットを得られる可能性があります。

⑤アンダーローンの場合
家の価値(売却見込み額)が住宅ローン残高を上回る「アンダーローン」の状態であれば、住宅ローンを完済するために別途資金を用意する必要がないため、売却を検討しやすいでしょう。

離婚時の取り決めについては「公正証書」の作成を

養育費や住宅ローンの支払いなどについて、どのような取り決めを行うとしても、必ず合意内容を離婚協議書にまとめて締結しておきましょう。

離婚協議書を作成すれば、夫婦間での合意内容が明確になり、その後のトラブルを防止できます。

特に、財産分与や養育費などの支払いを受ける側としては、離婚協議書を公正証書化しておくのがお勧めです。

公正証書に強制執行認諾文言を記載しておけば、万が一不払いが発生した場合、スムーズに強制執行を申し立てることができます。また、原本が公証役場で保管されるため、紛失や改ざんを防げる点も大きなメリットです。

離婚公正証書の作成は、弁護士にご相談ください。

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