離婚後の相続|法定相続人は誰か、元配偶者の子が相続できないことはあるか

家庭問題

離婚や再婚を経た被相続人が亡くなった場合、家族関係が複雑になり、相続トラブルのリスクも高まります。

離婚後の相続トラブルのリスクを少しでも減らすためには、相続に関する民法のルールを踏まえたうえで、事前に対策や心構えをしておくことが大切です。

今回は離婚後の相続に関して、基本的なルールや注意点をまとめました。

離婚後の相続における法定相続人は誰?

離婚をした場合、離婚前とは法定相続人の構成が変わり、それに伴って各相続人の法定相続分も変化します。

民法のルールを踏まえて、正しい法定相続人・法定相続分を把握しておきましょう。

元配偶者は相続人でなくなる

被相続人の配偶者は、常に相続人となります(民法890条)。

しかし、被相続人となる方が離婚をした場合、「元配偶者」は配偶者ではなくなりますので、相続権を失うことになります。

元配偶者との間の子は、引き続き相続権を有する

離婚をしたとしても、元配偶者との間に生まれた子との間では、法律上の親子関係が存続します。

したがって、被相続人となる方が離婚をした場合であっても、元配偶者との間の子は、引き続き相続権を有します。

離婚前後の法定相続人・法定相続分の変化例

離婚によって、法定相続分がどのように変化するのかを、具体例を用いて検討してみましょう。

<設例①>
離婚前の相続人は配偶者A、子B、子Cの3人
被相続人Xは、配偶者Aと離婚した

設例①のケースでは、離婚前後で法定相続分は以下のとおり変化します。

<離婚前の法定相続分>
A:2分の1
B:4分の1
C:4分の1

<離婚後の法定相続分>
B:2分の1
C:2分の1

離婚によって配偶者Aが相続権を失ったため、配偶者Aの法定相続分は、被相続人の子であるBとCに移る形となりました。

それでは、被相続人Xがその後再婚した場合はどうなるでしょうか?

<設例②>
・設例①の離婚後、被相続人Xは、配偶者Dと再婚した
・XとDとの間に子Eが生まれた

設例②のケースでは、再婚して子Eが生まれた後の法定相続分は、以下のとおりです。

<再婚後の法定相続分>
B:6分の1
C:6分の1
D:2分の1
E:6分の1

Dが新たに被相続人の配偶者となったため、2分の1の法定相続分を獲得しました。

その一方で、残りの2分の1の法定相続分を、被相続人の前配偶者との子であるB・Cと、現配偶者であるDとの子であるEの3人が、均等に分け合う形となりました。

離婚後の相続における実際の相続分の決定方法

離婚後の法定相続分の決定方法は前述のとおりですが、実際の遺産相続は、法定相続分のとおりに行われるとは限りません。

実際の相続分は、以下の手順で決定されます。

遺言書があればその内容に従う

遺言書がある場合は、基本的にはその内容に従って遺産相続が行われます。

遺言者(被相続人)は、遺言によって財産の全部または一部を自由に処分できるとされているからです(民法964条)。

ただし、形式不備や偽造・変造などが原因で、遺言が無効とされる場合があることに注意が必要です。

また後述するように、相続人間で遺留分侵害額請求が行われる場合には、遺言による遺産配分が一部修正される結果となります。

遺言書で配分が決まっていない遺産は、遺産分割協議で分割方法を決定する

遺言書がない場合には、遺産分割協議によって遺産分割の方法を決定します(民法908条)。

また、遺言書で配分が指定された遺産が一部のみであった場合には、残りの遺産が遺産分割の対象となります。

なお、遺言書がある場合でも、相続人全員の同意があれば、遺言書とは異なる方法により遺産分割を行うことができると解されています。

遺産分割協議がまとまらない場合は、調停・審判を利用する

遺産分割協議が紛糾し、合意に至らない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。

 

遺産分割調停では、調停委員を仲介者として、相続人全員が遺産分割の方法について協議を行います。

最終的に、裁判官が提示する調停案に相続人全員が同意すれば、遺産分割調停は成立です。

これに対して、遺産分割調停が不成立に終わった場合には、「審判」によって家庭裁判所が遺産分割の結論を示します。

審判による遺産分割の方法の決定に当たっては、法定相続分が基準とされます。

元配偶者の子に遺産を相続させないことは可能?

離婚の際、元配偶者が親権を獲得し、子どもと離れ離れになった後、再婚して別の家庭を持つケースもあろうかと思います。

この場合、疎遠になった元配偶者との間の子どもには、遺産を相続させたくないと思う方もいらっしゃるかもしれません。

遺言書を作成すれば、元配偶者との間の子の相続分をゼロと指定することもできますが、遺留分侵害額請求によるトラブルのリスクがある点に注意が必要です。

相続分は遺言書で自由に指定できる

前述のとおり、被相続人は遺言書によって、財産を自由に処分することができます。

したがって、遺産を相続させたくない元配偶者の子の相続分をゼロとし、他の相続人の相続分を多めに設定することも可能です。

遺留分侵害額請求によるトラブルに注意

ただし、兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」という権利が認められています(民法1042条1項)。

「遺留分」とは、相続できる遺産の最低保障額です。

遺贈(遺言による贈与)や生前贈与が行われた結果、遺留分未満の遺産しか取得できなかった法定相続人は、財産を多く取得した者に対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます(民法1046条1項)。

遺留分侵害額請求が認められると、遺留分に対する不足額につき、金銭で支払いを受けられます。

遺留分侵害額請求が行われると、相続人同士が対立当事者として争うことになります。

訴訟に発展するケースも多く、親族間の関係性に亀裂が入ってしまう可能性が高いので要注意です。

なお、遺留分侵害額請求権はあくまでも法定相続人の権利であり、行使するかどうかは権利者の判断に委ねられています。

元配偶者の子による遺留分侵害額請求が認められない場合

以下のいずれかに該当する場合には、元配偶者の子による遺留分侵害額請求は認められません。

①消滅時効が完成した場合

遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年で時効消滅します(相続開始の時から10年が経過した場合も同様です。民法1048条)。

消滅時効が完成した場合、請求を受けた側が時効を援用すれば、元配偶者の子による遺留分侵害額請求は認められなくなります。

②相続欠格に該当した場合

被相続人に対するきわめて悪質な非行や、遺産相続において不当に利益を獲得しようとする行為をした相続人は、自動的に相続権を失い、それに伴って遺留分も失います(民法891条)。

相続欠格に該当する事由は、以下の5つです。

  • 故意に被相続人、先順位相続人、同順位相続人のいずれかを死亡させ、または死亡させようとしたために、刑に処せられたこと
  • 被相続人が殺害されたことを知っていながら、告発または告訴をしなかったこと(是非の弁別がない場合、および殺害者が自己の配偶者または直系血族であった場合を除く)
  • 詐欺または強迫によって、遺言やその撤回・取り消し・変更を妨げたこと
  • 詐欺または強迫によって、遺言をさせ、または遺言を撤回・取り消し・変更させたこと
  • 被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿したこと

③相続廃除の審判がなされた場合

相続人について、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行があった場合、被相続人は家庭裁判所に相続廃除を請求できます。

家庭裁判所によって相続廃除の審判が行われた場合、相続人は相続権を失い、それに伴って遺留分も失います(民法892条)。

④相続放棄をした場合

相続放棄をした場合、初めから相続人にならなかったものとみなされ(民法939条)、それに伴って遺留分も失われます。

離婚後の相続に関する注意点

すべての相続に共通する話ではありますが、

「遺産分割協議には相続人全員参加」

「相続手続きは早めの対応を」

という2点は必ず念頭に置いておきましょう。

特に離婚後の相続では、上記の2点が疎かになるケースもあるので要注意です。

遺産分割協議は相続人全員参加が必須

遺産分割協議は、相続人全員の参加が必須です。

一人でも相続人が欠けている場合、遺産分割が無効・やり直しとなってしまいます。

被相続人が離婚や再婚を経験している場合、相続人が複数の家系に散らばっている可能性があります。

被相続人の戸籍謄本等を確認して、漏れなく相続人を把握し、必ず相続人全員参加の下で遺産分割協議を行いましょう。

各種手続きの期限に注意|早めの対応を

相続に関連する手続きには、比較的早めに期限が設定されているものもあります。

(例)
相続放棄:自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月(ただし、過ぎても認められる場合あり)
所得税の準確定申告:相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内
相続税申告:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内
遺留分侵害額請求:相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年(または相続開始の時から10年)

被相続人が離婚や再婚を経験しているケースでは、相続人の把握に時間がかかったり、相続人間のコミュニケーションがうまくいかなかったりして、相続手続きに時間がかかることも多いです。

各手続きの期限に遅れないように、きちんとスケジュールを管理しながら、計画的に相続手続きを進めましょう。

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