- 配偶者が自分に隠れて多額の借金をしていたことが分かった。
- どうやら、子どもの進学のための預貯金にも手を付けているらしい。
こんなことがわかれば、離婚を検討することになるでしょう。
しかしそもそも、借金を理由とする離婚ができるのか、離婚した場合の慰謝料や養育費、財産分与はどうなるのかについてわからないという人も少なくないと思われます。
そこで、今回は、借金を原因とする離婚は可能なのか、離婚する場合の慰謝料請求は可能か、養育費請求はどうなるか、財産分与で借金は折半かなどについて解説します。
借金は離婚理由になるのか
配偶者が他方に隠れて借金をしていた場合、話し合いで折り合いがつけば協議離婚することができます。
また、当事者間の協議が調わなかった場合でも、離婚調停で合意に至れば離婚することは可能です。
問題は、借金を作った配偶者が離婚をかたくなに拒否し、調停でも離婚ができなかった場合、裁判で離婚することができるかです。
裁判で離婚するためには民法に定める裁判離婚原因があることが必要です。借金は、法定の裁判離婚原因のうち「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するかどうかが問題となります。
結論からいうと、借金があるだけでは、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に常に該当するとまではいえません。
借金の原因、借金の金額、それが婚姻生活に与えた影響などから、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する場合があといえるにとどまります。
具体的には、例えば、ギャンブルで何百万円もの借金を作り、これを返すために生活費や子どもの進学のための預貯金なども使い果たすなどして、経済的に大きな支障が出るような状況になれば、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当するとして、裁判離婚が認められることになるでしょう。
借金と離婚|慰謝料・養育費・財産分与について
では、借金が原因で離婚する場合に、慰謝料や養育費、財産分与はどうなるのでしょうか。
慰謝料について
借金が原因で離婚する場合、慰謝料を請求することができるかが問題となります。
もちろん、協議離婚や調停離婚にあたり、借金をした配偶者が任意で慰謝料を払うといえば、支払ってもらうことができます。
問題は、借金をした配偶者が任意で支払うことを拒否する場合です。
結論としては、借金が、1で述べた裁判離婚原因に該当するような場合には、その配偶者は、離婚原因を作った「有責配偶者」として、借金により相手方が被った精神的苦痛に対して慰謝料を支払う責任が認められるといえます。
ただし、判決で慰謝料責任が認められたとしても、そもそも多額の借金を背負っている者が、これを支払う資力がないことも少なくありません。そうすると、慰謝料を認めた判決は絵に描いた餅になってしまう危険性があります。
また、多額の慰謝料を背負った配偶者がその後自己破産を申立てた場合、慰謝料請求も免責されてしまう可能性があります。
この点、ギャンブルや浪費などは自己破産の「免責不許可事由」に該当するので、申立をしても免責が認められず、したがって、慰謝料支払義務も免責されないのではないかという疑問が生じます。
しかし、実務上は、ギャンブルや浪費を原因とする自己破産の申立でも、手続が厳格になるだけで免責が認められることが少なくありません。
そうするとやはり、慰謝料支払義務も免責されてしまい、最終的には回収することができなくなってしまいます。
養育費について
養育費は、子どもの生活費や学費などを負担する費用で、親の子に対する扶養義務が根拠となっています。
借金で離婚した場合でも、養育費が免除されることはありません。
原則どおり、夫婦それぞれの年収、子どもの人数、子どもの年齢などにより金額が決定されます。
また、仮に自己破産をして免責許可された場合でも、養育費の支払義務は免除されないので、自己破産後も請求することが可能です。
なお、いったん決まった養育費について、借金の支払いが厳しいため減額してほしいと考えた元配偶者が「養育費減額調停」を起こす可能性もあります。
しかし、養育費の減額は、原則として他に扶養家族ができた場合や収入が大幅に減少したとき以外は認められません。
借金を理由に調停を申し立てられても、これを拒否すれば減額を免れると考えてよいでしょう。
借金は折半?支払い義務は?財産分与
では、財産分与において、借金はどのように取り扱われるのでしょうか。
原則としては、夫婦生活の中で発生した借金(住宅ローンや教育ローンなど)は、夫婦双方が負担するものと考えられるため、財産分与にも反映されることになります。
具体的には、プラスの財産の総額(預貯金など)から借金を差し引いてその残額を、原則2分の1ずつ分けることとなります。
例えば、夫の作った借金が100万円、夫の財産が総額150万円、妻の財産が総額100万円だった場合には、以下のようになります。
(150万円(夫の財産)+100万円(妻の財産)-100万円(夫の借金))÷2=75万円
すなわち、この場合、財産分与額は75万円となるので、妻から夫に25万円を渡すことになります。
しかし、財産分与に借金が反映されない場合もあります。それは、婚姻生活とは全く関係ない個人的な都合により借金をした場合です。
例えば、先ほども挙げたようなギャンブルや浪費、投資の損失を原因とする場合が該当します。
そのため、先ほどの例で夫の借金100万円が全額ギャンブルによるものであった場合には、財産分与には反映されなくなります。
分与額の計算は以下のとおりとなります。
(150万円(夫の財産)+100万円(妻の財産)÷2=125万円
すなわち、この場合、財産分与額は125万円となるので、逆に、夫から妻に25万円を渡すこととなります。
ただし、夫に多額の借金がある場合には、資産を食いつぶしていることも少なくないため、実際には、財産分与を受けられないという場合も少なくありません。
まとめ
今回は、借金が原因で離婚できるか、離婚できる場合に慰謝料や、養育費、財産分与はどうなるのかという点について解説してきました。
法的には慰謝料や養育費、財産分与は認められるものの、実際には、借金まみれの配偶者が資産を食いつぶしている、収入のほとんどを返済に充てるなどして、支払を受けられないことも少なくありません。
配偶者に借金があって離婚したいとお考えの方は、できるかぎり借金の理由や総額について調べたうえで、弁護士に相談しましょう。
離婚問題に詳しい弁護士であれば、離婚の可否や慰謝料、養育費、財産分与の請求について、適切な助言をすることができます。是非お気軽にご相談ください。