離婚したときに苗字を変えないことを「婚氏続称」といいます。
「婚氏続称」を選択する人は、2022年度の「戸籍統計」によれば約42%であり、半数近い人が、離婚後も苗字を変えないことを選んでいます。
今回は、離婚後も旧姓に戻さないことに、どのようなメリット・デメリットがあるのか、離婚後の生活にどのような影響を及ぼすのかなどについて解説していきます。
離婚で旧姓に戻さないメリット・デメリット
はじめに、離婚しても旧姓に戻さず苗字を変えないままにした場合に、どのようなメリット・デメリットがあるかを解説します。
苗字を変えないメリット
苗字を変えないメリットは以下のとおりです。
銀行口座などの名義を変更する必要がない
姓が変わることによって、銀行口座や運転免許証パスポート、国民年金等々の書類の名義変更手続きが生じます。
手続には時間がかかりますし、銀行などは平日の営業時間しか手続ができないため、仕事をしている人は、なかなか手続きがしにくいという問題があります。
離婚しても苗字を変えないという選択をすれば、面倒な名義変更手続をしなくて済みます。
周囲に離婚の事実を知られにくい
離婚後に苗字を旧姓に戻すと、離婚したことが周囲に知られてしまうこととなります。
プライベートのことをあれこれ詮索される煩わしさもありますし、気遣いをさせてしまうこともあります。
苗字を変えなければ、離婚の事実を知られにくいので、詮索されたり気遣いをされるのが苦手な方にはメリットとなります。
子どもへの影響を軽減できる
子どもの苗字が離婚により変わると、学校でからかわれたり、いじめの標的にされてしまう恐れがあります。
離婚により苗字を変えなければ、子どもの親権者となった後も、子どもの苗字も変える必要がないため、上記のようなことは回避することができます。
積み上げた業績に影響が生じるのを防ぐことができる
例えば、営業職に就いている人などは苗字が変わることで、担当者が変わったと取引先に勘違いされ、業績に影響が生じることもありえます。
また、研究者や著述業をしている人にとっては、論文や書籍について婚姻時の苗字で業績を残している人もおり、離婚により苗字を変えることで、別人が論文や書籍を作成したような印象を社会的に与えてしまい、やはり業績に悪影響が生じることもあり得ます。
離婚により苗字を変えなければ、上記のようなリスクを回避することができます。
苗字を変えないデメリット
苗字を変えないデメリットは、以下のとおりです。
心理的な負担が回避できない
離婚に至るまでの過程には、DVやモラハラなど、つらい経験が伴う場合もあります。
このようなケースにおいて、離婚後も苗字を変えないでいると、未だ婚姻しているかのような気持ちになりやすく、心理的な負担から逃れられないデメリットがあるといえます。
あとで旧姓に戻しにくい
離婚後に苗字を変えないでいることを選択しても、例えば、子どもが学校を卒業したり、成人したタイミングなどで、旧姓に戻したくなる場合もあります。
しかし、離婚時に苗字を変えない選択をすると、後日旧姓に戻すのは難しく、認められない可能性もあります。
詳しい手続は後述しますが、旧姓に戻したくても簡単に戻せないことは、デメリットのひとつといえます。
元配偶者やその家族、離婚後の交際相手に嫌がられることがある
離婚後も苗字を変えないでいると、元配偶者やその家族から、「もう私たちとは関係ないのに」などと嫌な顔をされるリスクがあります。
また、離婚後に交際を開始した相手からも、「別れた配偶者の苗字を使っているなんて、まだつながりや未練があるのか」と邪推されるリスクがあります。
親戚と異なる苗字になる
離婚後に苗字を変えないでいると、自分の親や兄弟姉妹、その他の親族と苗字が異なることとなり、人によっては疎外感を感じることになります。
将来的にお墓に入れない場合もあり、親族関係によっては大きなデメリットとなるでしょう。
離婚と苗字の手続
以下では、離婚と苗字に関する様々な手続について解説します。
婚姻時の苗字を変えない方法
離婚時は旧姓に戻るのが原則で、苗字を変えない場合には、別途「婚氏続称の届出」が必要となります。
子の届出は、役所に届出をすれば足り、離婚後3か月以内にすることが必要となります。
一般的には離婚届と一緒に提出します。
子どもの苗字はどうなるか?子どもだけそのまま?
子どもの苗字は、なんの手続きもしなければ、婚姻時の親の苗字のままとなります。
これは離婚して配偶者の戸籍から抜ける者が、子どもの親権者となった場合でも同じとなります。
そうであれば、離婚後も苗字を変えない場合には、子どもの苗字も変える必要がないため、何らの手続もしなくてよいように思えます。
しかし、離婚時に配偶者の戸籍から抜ける者が子どもの親権者となった場合になんの手続もしないと、子どもはずっと相手方の戸籍に入ったままとなります。
そうすると、自身の戸籍を一見しても、子どもとの親子関係がわからなくなるため、親子関係を証明するために戸籍謄本を提出する必要がある場合には、常に戸籍の写しを2つ取得する必要が生じ、何かと不便になります。
そこで、離婚後に苗字を変えない場合であったとしても、子どもの親権者になった場合には、子どもを自分の戸籍に入れるのが望ましいといえます。
この手続は、「子の氏の変更許可申立」と呼ばれるもので、家庭裁判所に申し立てる手続となります。
離婚後に苗字を変えない場合でも、子どもの親権者となり、自分の戸籍に入れる場合には、この手続が必要となるので注意が必要です。
婚氏続称から旧姓への変更手続は可能?
離婚時に苗字を変えなかった場合でも、その後、旧姓に戻したくなることがあります。
先にも記載したように、子どもが学校でからかわれたりしないために離婚時に苗字を変えなかったけれど、子どもが学校を卒業した、成人したなど、状況が変わった場合などです。
いったん苗字を変えない選択をしたものの後に旧姓に戻したくなった場合には、家庭裁判所に「氏の変更許可申立」を行うこととなります。
しかし、「氏の変更許可申立」が認められるのは「やむを得ない事由」がある場合に限られます。単に「旧姓に戻したいから」という理由だけでは認められません。
だからこそ、離婚時に、苗字を変えないか旧姓に戻すかは、慎重に判断することが必要です。
再婚時の苗字選択はどうなるの?
離婚後に再婚した場合、苗字はどのようにすることができるでしょうか。
日本は、法律婚をした場合には、夫婦同姓が強制されます。
そのため、再婚相手とともに、①再婚相手の苗字を選択するか、②自身の苗字(離婚時に変えないままのもの)を選択するのが原則となります。
仮に先に記載した「氏の変更許可申立」を再婚前に行い、これが認められて旧姓に戻すことができた場合には、再婚相手とともに旧姓を名乗ることが可能となります。
なお、再婚相手の苗字を選択した場合、自身の子どもが自動的に再婚相手の苗字になるわけではありません。
この場合に子どもの苗字も再婚者の苗字にするためには、先ほど解説した「子の氏の変更許可申立」をする必要があります。
ただし、「子の氏の変更許可申立」をして、子どもも再婚相手の苗字になった場合でも、当然に子どもと再婚相手の間に親子関係が発生するわけではありません。
子どもと再婚相手との間に親子関係を発生させるためには、別途養子縁組の手続が必要となるので、注意が必要です。
まとめ
苗字を変えることにも変えないことにも一長一短があります。
そのため、離婚後の苗字をどうするかについては、後悔がないように慎重に決める必要があります。
特に苗字を変えない選択をした場合には、旧姓に戻すことは難しく、再婚しない限り、離婚した配偶者と同じ苗字を名乗り続けなければならなくなることがほとんどです。
その時自身が置かれている状況だけでなく、将来的なことも十分に検討したうえで、離婚時に苗字をどうするか決めましょう。