子どもがいる夫婦が離婚した場合、離婚後の養育費の支払いは毎月行うのが原則です。ただし、当事者の合意があれば、養育費を一括で精算することも認められます。
養育費を一括で請求する場合、総額1000万円以上になることもあり、受け取る側も請求される側にとってもメリット・デメリットの両面があります。毎月払いのケースと比較したうえで、どちらの方法による支払いを求めるべきかをよくご検討ください。
今回は離婚時の養育費の一括請求をしたい場合の、メリット・デメリット・税金、得に贈与税の取扱い、贈与税がかからない方法を含めた注意点などを解説します。
養育費の一括請求・一括払いをしたい!可能か?
養育費は、子どもと同居しない親(非同居親)から同居する親(同居親)に対して支払われます。
毎月払いが原則となりますが、親同士が合意すれば、養育費を一括で精算することも可能です。
離婚時に当事者が合意すれば、一括請求・一括払いも可
養育費に関する事項は、離婚する夫婦が協議によって決めるのが原則です。
養育費の金額だけでなく、支払い方法についても、(元)夫婦間の協議によって決めることができます。したがって、原則的な毎月払いではなく一括払いを選択することも、(元)夫婦間で合意すれば問題ありません。
裁判所の調停を利用する場合でも、養育費の一括払いを含む調停案に双方が合意すれば、一括で養育費を精算できます。
審判・訴訟で養育費を決める場合、毎月払いになる
これに対して、審判や訴訟を通じて裁判所が養育費を決定する場合、養育費の一括精算が認められることは基本的にありません。
養育費は実務上、毎月払いが原則とされているため、裁判所は毎月払いを前提に判断を行います。
当事者同士が特に合意すれば一括払いも可能となるものの、審判・訴訟で養育費を決定しなければならないケースでは、養育費に関する合意は一般に困難です。
したがって、養育費の一括払いを求めたい場合は、審判や訴訟ではなく、協議や調停による合意を目指すべきでしょう。
養育費を一括で受け取ることのメリット・デメリット
養育費を一括で受け取ると総額1000万円を超えることもあり、メリット・デメリットの両面があります。毎月払いの場合と比較して、どちらの方法による支払いを求めるかについて、事前によくご検討ください。
養育費を一括で受け取ることのメリット
養育費の不払い・滞納を防げる
養育費の支払いを長期間にわたって受ける場合、途中で支払いが滞ってしまうケースが少なくありません。
この点、養育費の支払いを一括で受けることにより、不払い・滞納のリスクを防ぐことができます。
元配偶者と連絡を取る機会が減る
元配偶者との関係性がきわめて悪く、養育費に関するやり取りを行うことさえ苦痛だという場合もあるでしょう。
養育費を一括で精算しておけば、元配偶者との間で養育費に関するやり取りを行う必要がなくなるため、精神的なストレスが軽減される面があります。
1000万円を超える?養育費を一括で受け取ることのデメリット
支払い総額の減額を求められる可能性がある
将来受け取るはずのお金を前倒しで受け取る場合、利息相当額を控除するのが一般的です(中間利息控除)。したがって相手から、毎月払いの場合よりも支払い総額を減額するよう求められるかもしれません。
現実的にも、一括払いの養育費は1,000万円を超えることもあり、全額をまとめて支払うことは困難なケースが多いです。相手が一括払いの金額の減額を要求してきた場合、支払いを確保するため、減額を受け入れざるを得ない可能性があります。
合意がまとまらずに離婚協議が長引きやすい
養育費の一括払いは金額が大きくなるため、相手の同意をすんなり得られるケースは稀です。
一括払いにこだわりすぎると、離婚条件に関する合意がまとまらず、離婚成立が先延ばしになってしまうおそれがあります。
浪費してしまい、将来的に困窮する可能性がある
養育費を一括払いで受け取った場合、計画的に使わなければ、将来的に生活費や学費が底をついてしまうでしょう。
もし一括で受け取った養育費を浪費すると、いずれ困窮してしまう可能性が高いので注意が必要です。
将来的な事情変更に対応しにくい
養育費を毎月払いとしておけば、将来的にどちらかが再婚したり、収入バランスが変化したりした場合に、養育費の増額・減額等の調整がしやすい点がメリットです。
これに対して一括払いの場合、すでに一括で支払った養育費の返還は認められにくいため、将来的な事情変更に対応できる幅が狭まってしまうのが難点と言えるでしょう。
養育費を一括で受け取る際に注意すべきポイント
養育費を一括で受け取る場合、税金問題など思いがけないトラブルが発生するリスクを防ぐため、以下のポイントにつき十分ご注意ください。
税金・贈与税問題|かからない方法はあるか
養育費は「通常必要と認められる」範囲であれば、税金である贈与税の課税対象から除外されます(相続税法21条の3第1項第2号)。
しかし、養育費として非常に大きな金額を一括で受け取った場合、「通常必要と認められる」範囲を超えていると判断され、贈与税が課される可能性があるので注意が必要です。
この場合、「通常必要と認められる」範囲を超えた金額のうち、年間110万円を超える部分に最大55%の贈与税が課税されます。
一括払いの養育費について、税金である贈与税の課税を避けるためには「養育信託」を利用する方法などが考えられます。
養育信託とは、義務者が信託銀行等に養育費を一括で預けて、信託銀行等が権利者に対して毎月養育費を渡す内容の信託です。
養育信託を活用すれば、毎月払いの場合と同様に、養育費に対する贈与税の課税を回避できる可能性があります。
また、養育費の不払いや、浪費による困窮を防げる点も養育信託のメリットです。
将来的な追加請求の取扱いを合意しておくべき
養育費を一括精算した場合、当事者間で別段の合意をしなければ、将来的な養育費の追加請求は認められない可能性が高いです。しかし子どもの進学や、病気などの突発的な事故に関連して、養育にかかる費用が増えることも想定されます。
同居親としては、特別の事情が生じた場合には、非同居親に対して養育費を追加請求できるようにしておくことが望ましいです。そのため、養育費の一括払いと併せて、将来的な追加請求の取扱いについても、離婚時によく話し合って取り決めておきましょう。
合意書を作成して、支払い内容等を明記しておくべき
一括払いであっても、将来的に養育費に関するトラブルが発生する可能性は否定できません。そのため、毎月払いの場合と同様に、養育費の支払い内容等を明記した合意書を作成しておきましょう。
合意書には、一括払いの金額や内訳などに加えて、追加請求の取扱いなどを明確に記載しておくことが重要です。弁護士に相談すれば、将来的なトラブルを回避できるように、法的な観点から整った内容の合意書を作成してもらえるでしょう。
まとめ
養育費を一括で請求をしたい場合のメリット・デメリット、税金や贈与税について解説しました。
一括で請求すると、不払い・滞納を防げる点や、相手と連絡を取る機会を減らせる点などのメリットがあります。
その一方で、一括払いについて相手の同意を得なければならず、さらに浪費による困窮や贈与税の課税などにも注意しなければなりません。
弁護士に相談すれば、養育費の金額や支払い方法を含めて、有利な条件による離婚を早期に成立させられるように尽力してくれるでしょう。
配偶者との離婚をご検討中の方は、お早めに弁護士へご相談ください。
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