離婚をめぐるトラブルで、「離婚届を勝手に出された」という問題が時折見受けられます。
今回は、離婚届を勝手に提出された場合、その効果はどうなるのか、警察は逮捕するのか、予防策はあるのかなどについて、解説していきます。
離婚届を勝手に出したらどうなるか
まず最初に、離婚届を勝手に出すというのは具体的にどのようなケースなのか、受理されてしまうのか、犯罪が成立するのかなどについて解説します。
離婚届を勝手に出すとはどういうことか
離婚届を勝手に出すということは、相手方が離婚に同意していないのに、協議離婚届を市区町村役場に提出することを言います。
具体的には、相手方の署名捺印を偽造して協議離婚届を作成して提出するといった方法や、何年も前に夫婦それぞれが署名捺印しておいた協議離婚届を相手方の承諾なく提出する方法があります。
離婚届を勝手に出しても受理される?
市区町村役場は、例えば夫婦がひとりだけで離婚届を市区町村役場に提出しに行けるうえ、提出された後相手方配偶者の意思確認をされることもありません。窓口で行われるのは形式的なチェックにとどまります。
ですので、離婚届を相手方の承諾を得ずに役所しに提出しても受理されてしますリスクが相当程度ありあます。
離婚届を勝手に出したら相手にバレる?
離婚届を夫婦の一人が単独で提出した場合、市区町村役場から「離婚届受理証明」という通知が送付されます。
これにより、夫婦の一方が勝手に離婚届を提出したことが相手方に明らかになる場合があります。
ただし、この通知が見過ごされたり、あるいは見ないうちに捨てられてしまったような場合は、この段階で離婚届を勝手に出されたことは発覚しません。後日戸籍謄本を確認した際に勝手に離婚されたことがわかることになります。
離婚届を勝手に提出すると犯罪になる?
まず、相手の署名捺印を偽造して離婚届を作成する行為は、有印私文書偽造罪(刑法159条1項)に該当します。
また、偽造した離婚届を市区町村役場に提出する行為は、偽造私文書行使罪(160条)に該当します。
いずれも3か月以上5年以下の懲役刑により処罰されることとなっています。
以前夫婦双方が署名捺印した離婚届を、署名捺印から時間が経っているにもかかわらず、相手の意思を確認せずに提出する行為は、役所に虚偽の申立てをして戸籍簿に不実の記載をさせることになるため、電磁的公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)が成立する可能性があり、この場合には、5年以下の懲役刑又は50万円以下の罰金刑が課されることとなります。
そのため、無断で離婚届を提出された配偶者が警察に被害届を出した場合には、警察に逮捕されてしまう可能性もあります。
無断で離婚届を出した後に考えられる流れ
離婚は当事者双方に離婚意思がある場合に成立するものです。離婚届が勝手に出された場合、相手方に離婚意思がなく、離婚は無効となります。
そこで、離婚無効を確定し、婚姻状態に戸籍を回復することが必要となります。
以下では、そのための手続などについて解説します。
離婚届を勝手に出された後の流れ
協議離婚無効確認調停
先ほども述べたように、離婚届を勝手に出された場合、相手方配偶者には離婚意思がなく、協議離婚は無効ということになります。
そこで、まず、家庭裁判所に協議離婚無効確認調停を起こすこととなります。そして、調停の場で、調停委員や裁判官の仲介で協議を行い、離婚届を提出した配偶者が無効を認めた場合には調停が成立することとなります。
調停が成立した場合には調停調書が作成されます。これを持参して市町村役場に行き、戸籍を訂正してもらいます。
協議離婚無効確認訴訟
離婚届を提出した配偶者が調停で離婚無効を認めなかったり、そもそも調停に出席せず、調停が不成立で終了した場合には、家庭裁判所に協議離婚無効確認訴訟を提起することとなります。
なお、訴訟提起に当たっては、離婚無効を主張する側が、これを立証するための証拠を提出する必要があります。具体的には、相手方とのLINEやメールのやり取りなどを提出して、自身が離婚を承諾していないことを立証したり、離婚届上の署名や印影について筆跡や印影の鑑定書を提出して、離婚届上の署名が自身の筆跡と異なることや、印影が自分が持っている印鑑のものではないことを立証する必要があります。
訴訟手続の中で、離婚届を提出した配偶者が無効を認めた場合には、裁判上の和解をすることができます。
裁判上の和解ができた場合には、和解調書が作成され、手続は終了となります。そして、和解調書を持参して市町村役場に行き、戸籍を訂正してもらいます。
離婚届を出した配偶者が離婚無効を認めない場合や、そもそも裁判に出席してこない場合には、裁判官に判決を下してもらうこととなります。
離婚届を無断で提出された配偶者が勝訴し、控訴が期間内にされなければ、協議離婚の無効が確定します。
そこで、判決書と、判決の確定証明を持参して市町村役場に行き、戸籍を訂正してもらうこととなります。
離婚届を勝手に出される前にできること
離婚届を勝手に出されることを防ぐには、予め市町村役場に「離婚届不受理申出」をしておくことが有効です。
この申出をしておけば、離婚届を受理されることはなく、無断で提出された離婚届により離婚させられてしまうといったことはなくなります。
提出にあたっては、不受理申出書1通と写真付きの本人確認書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカード等)が必要です。
この申出には有効期間の定めはなく、申出をした人が取下げをしない限りは有効なままとなります。
そのため、相手との話し合いで協議離婚が成立した場合には、届出とともにあるいはその前に取り下げておくことが必要です。
まとめ
今回は、離婚届が無断で提出された場合にどうなるかといったことについて解説してきました。
離婚届の無断提出は決して少ないわけではなく、離婚したい側が相手がなかなかこれに応じようとしない場合に勝手に出してしまうというケースが散見されます。
離婚届不受理申出をして届出が出されるのを防ぐことも必要ですが、そういった対応をする暇もなく提出されてしまった場合には、調停や訴訟のために、自分に離婚意思がなかったことを証明できる証拠をしっかり集めるようにしましょう。