・「今までの財産は俺が頑張って働いて築いたものなのに、専業主婦の妻に分与するのはおかしい!」
・「ほとんど自分の稼ぎによって資産を築いたのに、なぜ貢献度の少ない妻に半分与えないといけないのか?」
離婚する際に、妻が専業主婦の場合、また共働きであっても収入格差が大きい場合などは、夫は妻に「半分の財産を渡すのはおかしい、払いたくない」と考えるものです。
また、熟年離婚のケースなどでは、財産分与がかなり高額になるケースもあり、夫側の不満はさらに大きくなります。
そこで今回は「財産分与しないとどうなるのか」「妻への2分の1の財産分与を拒否できるケース」など、財産分与したくない方へ向けた情報をお伝えします。
払いたくない!離婚時の財産分与は必ずしなければならない?
財産分与の放棄自体は可能
離婚の際、妻に対して「お金を払いたくない」「財産分与したくない」と思っていても、必ず財産分与しなければならないのでしょうか?
離婚する時、夫婦にはそれぞれ財産分与を請求する権利(財産分与請求権 民法768条1項)が認められています。
そこで離婚の際には、実質的に夫婦が共有していた財産は、たとえ名義が夫婦の一方の名義となっているとしても、基本的に財産分与の対象となります。
ただし財産分与請求権は、自分の意思で放棄できます。財産分与が不要であれば権利行使せず、財産分与をもらわなくても良いのです。財産分与割合も自由に決められます。
そこで妻が自ら「財産分与しなくて良い」と言えば、妻に一切の財産分与をしなくて済みますし「私の貢献度は少ないから3割で良い」と言えば3割分の財産を渡せば済みます。
配偶者の意思に反し放棄させることは不可能
財産分与請求権の放棄は強制できません。相手が「財産分与してほしい」と言っているのに無理矢理放棄させることは不可能です。
離婚協議の際、説得によって妻が「財産分与を要らない」と本気で考え始めれば良いのですが、そうでない場合にはやはり原則的に半額分は払わねばならないのです。
離婚調停で財産分与しないとどうなる?拒否できる?
夫婦で離婚協議をしても合意できない場合には、離婚の話し合いは離婚調停にもつれ込みます。
夫が財産分与に応じないために妻が離婚調停を申し立てた場合、夫は財産分与を拒否し続けられるのでしょうか?
結論的には困難です。なぜなら離婚調停で財産分与を拒否し続けると調停は不成立となり、妻は「離婚裁判」を起こします。
裁判所は夫婦それぞれの財産分与請求権を認めますし、その割合も「2分の1ずつが相当」と考えているので、最終的に判決が出ると半分を妻に与えられてしまいます。
「妻に財産分与分のお金を払いたくない」としても、ただ単に拒否し続けているだけでは最終的に財産を半分持っていかれます。
財産分与を減額できない場合・できる場合
裁判をすると夫婦の財産分与は2分の1ずつにされるのが基本ですが、一定のケースでそのルールが修正される可能性があります。
以下では財産分与の2分の1ルールが修正されて妻への財産分与割合が減額される可能性のあるケースを紹介します。
相手が専業主婦の場合はどうなるか
妻が専業主婦の場合、多くの男性は「稼いでない嫁と折半にしなきゃいけないのはおかしい。財産分与したくない。」と考えます。
確かにかつて昭和の時代には、妻が専業主婦の場合、妻の財産分与の割合を20~30%に減額する裁判例も数多く出されていました。
しかし今ではそういった判断は行われません。「妻が専業主婦として家庭を守っていたからこそ夫が外で安心をして仕事ができて財産を形成できた」という意味で、妻にも共有財産の貢献度が認められるからです。
現在裁判をすると、専業主婦でも財産分与を2分の1もらえるケースが圧倒的に多数です。
夫婦共働きの場合はどうなるか
共働きでも夫婦に収入格差があれば、夫は「妻より自分の方が財産形成に対する貢献度が高いから自分の取り分を多くすべき」と考えます。「妻も収入があるから離婚後も生活に困らない。半分も財産を渡す必要がない」とも考えます。
ただ夫婦双方が経済的に独立して財布を別にしていても、婚姻中に積み立てた財産は基本的にすべて「共有財産」とみなされます。離婚裁判をすれば裁判所は「夫名義の財産と妻名義の財産の合計を2分の1ずつ」に分割します。
なお協議離婚の場合には、お互いが納得すれば「夫名義は夫、妻名義は妻が取得する」方法で財産分与することも可能です。
妻が離婚の原因を作った場合
ときには妻が「不倫」をして浮気の原因を作るケースもあるでしょう。そのようなとき、夫は「浮気した妻に2分の1の財産を渡すのは不合理、財産分与はおかしい」と考えるものです。
しかし裁判所の考え方として、「有責性」と「財産分与」は別問題とされています。
浮気して離婚原因を作った配偶者にも財産分与を認めますし割合も減額されません。
ただし妻が不貞したら慰謝料を請求できるので、実質的に渡す金額を減額させることは可能です。
財産形成への寄与度に圧倒的な差があるケース
財産分与割合が修正されるのは、夫婦の「財産形成への寄与度」に極端な差があるケースです。
寄与度とは「財産の形成にどれだけ貢献したか」です。
たとえば夫が医師で病院経営者であり夫婦の財産はほとんど夫の特殊な資質によって得ていた場合、夫が独身時代から持っていた株を夫婦で運用して莫大な収益を上げた場合などには、妻への支払いを2分の1より減額できる可能性があります。
「扶養的財産分与」を請求しようとする場合
財産分与には「清算的財産分与」だけではなく「扶養的財産分与」があります。
これは、妻が離婚後に一人で生活していくのが厳しいとき、一定期間夫が妻の生活の面倒をみるための財産分与です。
「扶養的財産分与」については、特に行わないケースが多数です。
離婚後2年経過した場合
財産分与請求権は、離婚後2年が経過すると消滅します。
そこで
- 役所に離婚届を提出した日(協議離婚)
- 調停成立日(調停離婚)
- 審判や裁判が確定した日(審判離婚、裁判離婚)
から2年間妻からの財産分与請求がなければ、もはや財産分与する必要はなくなります。
財産分与時に絶対してはいけないこと
預金・財産隠し
妻に財産分与したくない方が預貯金などの財産を隠すケースがあります。
しかし妻に財産隠しを疑われると、離婚調停でも解決できず離婚裁判に進み、裁判所から金融機関等に照会をかけられる可能性があります(調査嘱託)。
また財産隠しが発覚すると、離婚から2年間の財産分与請求期間を経過していても不法行為(財産権の侵害)などの理由で請求される可能性もあります。
使い込み
財産分与対象資産の使いこみもすべきではありません。
別居後に退職金や預貯金などの夫婦共有財産を使い込んでも、財産分与の基準時は別居時なのでその時点の残高を基準に2分の1ずつで分けられてしまいます。
使い込んでも支払い義務がなくならないので、結局「使い得」は認められません。
また使い込んだ金額が著しく高額な場合には、妻から損害賠償請求される可能性もあります。
離婚協議書に財産分与を記載する場合の注意点
協議離婚で財産分与するときには、必ず「離婚協議書」を作成しましょう。
離婚協議書とは
離婚協議書とは、夫婦で取り決めた離婚条件を明らかにする契約書です。契約書なので夫婦双方が署名押印します。
一方、念書は妻が「財産分与は〇〇だけで結構です」と認めて夫に差し入れる書面です。念書は妻のみが署名押印します。
念書だとリスクあり!?
念書も法的に有効ですが、相手が後から「強要された」「私が書いたものではない」などと言い出して効果を争われる可能性があります。
そこで離婚条件については夫婦二人が署名押印した「離婚協議書」を作成し「公正証書」にしておくことをお勧めします。
公正証書の場合、夫婦双方が公証役場に行って手続をするので、妻が後から「自分が書いたものではない」などと主張するのは困難となるからです。
清算条項を忘れずに入れる|後々のリスクを回避
離婚協議書を作成するときには、必ず「清算条項」を入れましょう。
精算条項とは「この離婚協議書をもって終局的に紛争を解決し、その後はお互いに何らの請求をしない」という条項です。
これを入れておかないと、妻が「まだ財産分与についてすべての話ができていない」と言い出して離婚後に追加請求してくる可能性があります。
精算条項の具体的な書き方としては、「今後、本件離婚協議書に定めた以外の金銭を一切請求しない。」としましょう。