相手が離婚を拒否し続けている場合に、離婚を成立させることのできる唯一の手続きが「離婚裁判(離婚訴訟)」です。
離婚を拒否する配偶者と離婚したい場合には、弁護士にご相談のうえ、離婚裁判を提起する準備を進めましょう。
今回は離婚裁判について、概要・メリット・デメリット・手続きの流れ・費用などを解説します。
離婚裁判(離婚訴訟)とは?
離婚を成立する場合には、「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3パターンがあります。
離婚裁判は、上記のうち「裁判離婚」を成立させることができる可能性のある法的手続きです。まずは離婚裁判の基本的な概要を解説します。
離婚裁判=離婚の可否を争う裁判手続き
離婚裁判(離婚訴訟)とは、離婚を希望する側と拒否する側に分かれた夫婦が、離婚の可否を争う裁判(訴訟)手続きです。
協議離婚・調停離婚が不成立となった場合に、離婚を希望する側が家庭裁判所に訴訟を提起することによって、離婚裁判が始まります。
離婚が認められるには「法定離婚事由」が必要
離婚裁判において、裁判所が離婚を認める判決を言い渡すのは、以下の5つの法定離婚事由のうちいずれかが認められた場合に限られます(民法770条1項)。
①不貞行為
②悪意の遺棄
③3年以上の生死不明
④強度の精神病に罹り、回復の見込みがないこと
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由
離婚を希望する側は、離婚裁判の口頭弁論期日において、上記いずれかの法定離婚事由の存在を立証しなければなりません。
有責配偶者からの離婚請求の可否について
有責配偶者とは、夫婦のうち、法定離婚事由の発生について専ら責任がある側を意味します。
自ら作り出した法定離婚事由を利用して離婚請求を行うことは信義誠実の原則(民法1条2項)に反するため、有責配偶者からの離婚請求は原則認められません。
ただし、夫婦が共同生活の実態を欠き、回復の見込みが全くない状態に至った場合には、婚姻関係を形式的に存続させる実益は乏しいと考えられます。
そのため、以下の要素を総合的に考慮して、信義誠実の原則に照らしても容認され得る場合には、例外的に有責配偶者による離婚請求が認められます(最高裁昭和62年9月2日判決)。
- 相手方配偶者の婚姻継続についての意思
- 相手方配偶者の有責配偶者に対する感情
- 離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的、社会的、経済的状態
- 離婚を認めた場合における夫婦間の子(特に未成熟の子)の監護、教育、福祉の状況
- 別居後に形成された生活関係(例:内縁関係が形成されている場合は、内縁相手やその子の状況など)
- 時の経過が上記の諸事情に与える影響
など
離婚裁判による審理の対象となるその他の事項
離婚裁判では、離婚の可否そのものに加えて、離婚に付随して取り決めるべき以下の事項についても審理の対象となります。
- 財産分与(年金分割を含む)
- 慰謝料
- 婚姻費用
- 親権
- 養育費
- 面会交流の方法
など
調停前置主義により、先に離婚調停を申し立てる必要がある
家事事件手続法257条1項に基づき、離婚事件については「調停前置主義」が採用されています。調停前置主義により、離婚裁判を提起際には、原則としてその前に離婚調停を申し立てる必要があります。
ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めた場合には、調停を経ずに離婚裁判の提起が認められることがあります(同条2項)。
例えば、相手が行方不明の場合などには、調停を経ずに離婚裁判を提起することが認められる可能性があるので、その旨を記載した上申書を裁判所に提出しましょう。
離婚裁判のメリット・デメリット
離婚裁判は、協議・調停とは異なり、夫婦間の合意によらずに離婚を成立させることができる唯一の手続きです。
それゆえに、以下に挙げるような離婚裁判特有のメリット・デメリットが存在します。
離婚裁判のメリット
離婚裁判の主なメリットは、以下のとおりです。
①相手が拒否していても、離婚が認められる可能性がある
協議離婚・調停離婚は、いずれも夫婦間の合意によって成立するため、相手が離婚を拒否している場合には成立しません。
これに対して離婚裁判では、判決によって強制的に離婚を成立させるため、相手が拒否していても離婚が認められる可能性があります。
②中立公正な裁判官による判断が行われる
離婚裁判の審理は、中立公正な立場にある家庭裁判所の裁判官によって行われます。
法定離婚事由が客観的に存在する場合には、その事実を正々堂々と主張・立証することで、公正な判決を得ることができるでしょう。
離婚裁判のデメリット
離婚裁判の主なデメリットは、以下のとおりです。
①時間がかかる
離婚裁判では、離婚そのものについて意見が食い違っているうえ、離婚条件についても審理が行われます。
そのため離婚裁判には、かなり長い期間を要するのが一般的です。平均的には1年超、泥沼化した場合には2年程度と、協議や調停よりもかなり長い時間がかかってしまいます。
②弁護士費用がかかる
離婚裁判では、法定離婚事由の法的な主張・立証が必要となるため、弁護士への依頼が事実上必須です。
弁護士費用は数十万円~数百万円と比較的高額で、費用面の負担が重くなってしまいます。
③公開法廷で行われる
離婚裁判の口頭弁論期日は、公開法廷で行われます。原則として自由に傍聴できるため、離婚というプライベートな事柄についての争いの有様を、他人に見られてしまう可能性がある点はデメリットと言えるでしょう。
ただし、一般的な離婚事件であれば、実際に口頭弁論期日を傍聴する人はほとんどいません。
④敗訴すると離婚が認められなくなる
離婚を認めない(請求棄却)判決が確定した場合、口頭弁論の終結日以前に生じた事由を根拠とした離婚請求は、原則として認められなくなります。
敗訴して離婚への道が閉ざされることを防ぐため、離婚裁判に臨む際には慎重に準備を整えることが大切です。
離婚裁判の流れ
離婚裁判は、大まかに以下の流れで進行します。
①家庭裁判所に対する訴訟提起
原告は、夫婦いずれかの住所地を管轄する家庭裁判所に対して、訴状を提出して離婚裁判を提起します(人事訴訟法4条1項、2条1号)。
<訴訟提起時の必要書類>
- 訴状2部
- 夫婦の戸籍謄本の原本、写し
- 「年金分割のための情報通知書」の原本、写し(年金分割における按分割合に関する処分の申立てをする場合。年金事務所や各共済年金制度の窓口で取得可能)
- 原告の主張する事実を立証するための証拠
- 証拠説明書
など
②家庭裁判所による訴状と期日呼出状の送達
訴状を受理した家庭裁判所は、被告に対して訴状を送達します。
さらに、第一回口頭弁論期日を指定したうえで、期日呼出状を原告・被告の双方に送達します。
③被告による答弁書の提出
訴状の送達を受けた被告は、家庭裁判所の指定する期日までに、被告としての主張をまとめた「答弁書」を提出します。
その際、被告側の主張する事実を立証するための証拠と、証拠説明書も併せて提出します。
④口頭弁論・弁論準備手続
口頭弁論期日では、当事者双方による主張・立証が行われます。
第1回期日では訴状・答弁書の内容確認および陳述が行われ、第2回期日以降で本格的な審理が行われるのが一般的です。口頭弁論期日の中では、必要に応じて証人尋問を行った後、当事者双方に対する尋問も行われます。
争点が複雑な離婚事件については、争点整理のために「弁論準備手続」が行われることもあります。弁論準備手続は非公開で実施され、今後審理すべき争点の整理などが行われます。
なお、口頭弁論期日の途中で、家庭裁判所が当事者双方に和解を提案する場合があります(民事訴訟法89条)。
裁判所が提示する和解案に当事者双方が同意すれば、和解調書が作成され、離婚裁判は終了します。
⑤判決・判決確定
口頭弁論期日における審理が熟した段階で、家庭裁判所が判決を言い渡します。
判決に対しては、判決書の送達を受けた日から2週間以内に控訴することができますが、この期間内に控訴がなければ判決は確定します。一方、当事者のいずれかが控訴した場合には、控訴審を経て判決が確定します(控訴審の後、さらに上告を行うこともできます)。
⑥離婚届の提出
離婚を認める判決が確定した場合、確定日から10日以内に、市区町村役場へ離婚届を提出します。
離婚裁判にかかる主な費用
離婚裁判には、主に「訴訟費用」と「弁護士費用」が発生します。
訴訟費用
訴訟費用とは、訴訟提起時に必要となる費用のことで、主に家庭裁判所に納付する手数料と、訴状の送達等に用いられる郵券代の2つがあります。
離婚請求については、家庭裁判所に納付する手数料は一律1万3,000円とされています。ただし、養育費の請求など、別の請求を付加する場合には、追加で手数料が発生します。
郵券代は、数千円~1万円程度です。郵券の種類や内訳は、家庭裁判所にご確認ください。
弁護士費用
離婚裁判の弁護士費用の項目・支払時期・金額の目安は、以下のとおりです。
①相談料
支払時期:正式依頼前の相談時
金額の目安:無料~30分5,500円
②着手金
支払時期:正式依頼時
金額の目安:33~66万円(財産分与・慰謝料請求等は別途)
③報酬金
支払時期:案件終了時
金額の目安:33~66万円(財産分与・慰謝料請求等は別途)
④日当
支払時期:期日などでの出張時
金額の目安:1日当たり3万3,000円~5万5,000円
⑤実費
支払時期:弁護士による
金額の目安:実際に支出した金額
弁護士費用は発生するものの、離婚裁判という重要な手続きに万全の体制で臨むためには、弁護士へのご依頼をお勧めいたします。
配偶者との離婚をご検討中の方は、お早めに弁護士までご相談ください。
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