子供がいる夫婦の仲が険悪となり、離婚を争うような状況では、当然ながら親権を夫が得るか妻が得るかという点が問題になることも多いでしょう。
しかし、子供と一緒にいたいあまりに、配偶者と一緒に住んでいる子供を勝手に連れ去ってしまうことは、犯罪に該当する可能性があるため、大いに問題があります。
円滑に離婚問題・親権問題を解決するためにも、正々堂々と話し合いや司法の手続きに則って争わなければなりません。
この記事では、離婚について争っている夫婦について、連れ去った場合、親権争いにどう影響するか、離婚後や別居後の連れ去りで警察に刑事告訴できるか、弁護士に相談したほうが良いかなどについて解説します。
「親権争い」で起きる子供の連れ去り
離婚別居中に、父親か母親の一方が監護している子供をもう一方が無理やり連れ去ってしまうケースには「親権争い」が関係している場合が多いといえます。
子供を連れ去る動機としては、単純に子供と一緒にいたいというだけの場合もありますが、時には「親権争いを有利にしたい。相手に勝ちたい。」という考えが働いている場合もあるようです。
夫や妻の子供の連れ去り事例
まずは、どのような場面で子供の連れ去りが発生するかについて、具体例を見ていきましょう。
- モラハラ夫が相手に黙って無断で子供を連れて別居した
- 通縁先や通学先で待ち伏せて子供を連れて帰った
- 相手の家に許可なく立ち入って子供を連れ去った
- 面会交流の機会に子供と一緒に過ごしたまま、相手の元に返さなかった
- 隙を見て強引に子供を連れ去られた
このように、子供の連れ去りのパターンはさまざまであり、気を付けてさえいれば完全に防止できるという性質のものではありません。
親権争いは子供を連れ去った側が勝ち?有利になるの?
子供を連れ去る側の親は、連れ去った側が親権争いにおいて有利になることを期待している場合があります。
しかし、もう一方の親に何らかの問題がある場合でない限り、子供を勝手に連れ去る行為自体は親権者としての適性を疑わせるものです。
したがって、親権者をどちらにするかの判断においてはマイナスに働くのが普通でしょう。
なお、親権者をどちらにするかを家庭裁判所が定める際には、子供の生活環境の安定も重視されます。
そのため一般的には、子供を実際に監護している親をそのまま親権者として指定する方が好ましいと考えられています(現状維持の原則、監護の継続性)。
しかし、子供を無理やり連れ去って監護権を奪った親が、現状維持の原則や監護の継続性を主張するのは不合理でしょう。
そもそも、連れ去りがなければもう一方の親の元で監護が継続していたわけですから、親権者の判断に際してはこの点も当然考慮されます。
ただし、親権者をどちらにするかの判断はあらゆる事情を総合して行われます。
したがって、総合的な判断の下で、子供を連れ去った側が結局親権を獲得するという場合はあります。
親権を定める際に考慮される要素としては、主に次のようなものが挙げられます。
- 現状維持の原則、監護の継続性
- 兄弟姉妹不分離の原則
- 母親優先の原則
- 子供の意思尊重の原則
- 経済力
- 生活環境
- 子供への愛情
- etc.
したがって、親権の帰属はあくまでも総合的に判断されるので、子供を連れ去ったとしても親権を得られるわけではないどころか、むしろ勝ちや有利になるというよりも「マイナスに働く可能性が高い」といえるでしょう。
子供の連れ去りが違法になるケース・ならないケース
子供を勝手に連れ去る行為は、未成年者略取・誘拐罪(刑法224条)の構成要件に該当します。
しかし、正式に離婚が成立する前は夫と妻の双方が子供の親権者である状態です。
親権者には子供の監護権があるので、相手に無断で子供を連れ去ってしまったとしても、その行為に必ずしも違法性があるとはいえない場合があります。
では、離婚成立前の夫と妻において、どのような場合に子供の連れ去りが違法となり、どのような場合が違法とはいえないのでしょうか。
子供の連れ去りが違法となるケース
違法な子供の連れ去りの基準については、最判平成17年12月6日が参考になります。
同最判の事例は、離婚を争っている夫と妻間の問題で、子供は妻とその両親の下で平穏に暮らしていました。
ところが、夫が保育園の送迎を待ち伏せして、祖母(妻の母)に連れられて妻の家に帰ろうとしている子供を無理やり抱きかかえて車に乗せました。
そして、祖母が制止するのを振り切って走り去り、子供を連れ去ったというものです。
最高裁は、以下の理由を挙げて、夫について未成年者略取罪の成立を認めました。
- 連れ去り行為が子供の監護養育上現に必要とされるような特段の事情はないため、親権者によるものであるとしても、正当な行為とはいえない
- 連れ去りの行為態様が粗暴で強引
- 子供が2歳と幼く、常時監護養育が必要とされるのに、連れ去り後の監護養育について確たる見通しはなかった
このように最高裁は、たとえ親権者であったとしても、子供を無理やり連れ去るような行為については、それを現に行う必要性がない限り、原則として違法であると考えています。
これに加えて、
- 連れ去り行為の態様
- 子どもの意思
- 連れ去り後の監護養育の見通しがあったかどうか
なども考慮され、連れ去り行為の違法性が判断されることになります。
連れ去り行為の違法性が阻却されるケース
最高裁の論理を裏から解釈すれば、連れ去り行為が子供の監護養育上現に必要とされるような特段の事情がある場合には、違法性阻却され、未成年者略取罪は成立しないことになります。
典型例としては、以下の場合が挙げられます。
- 監護親による子供に対する虐待がある場合
- (依然夫と妻が同居中の場合に)配偶者へのDVやモラルハラスメントが子供に及ぶ可能性がある場合
子供を連れ去られてしまった場合の対処法
離婚係争中の配偶者に子供を連れ去られてしまった場合に、取ることのできる対処法について解説します。
子の引き渡し調停・審判
子の引き渡し調停では、夫と妻の間の話し合いによる引き渡しの実現を目指します。
しかし、引き渡しについての合意に至らない場合には、審判というより強力な手続に移行します。
審判手続でも引き続き和解が目指されますが、和解に至らない場合には裁判所による審判が下されます。
審判の結果に当事者が納得できない場合には、訴訟手続へ移行することになります。
子の引き渡し審判前の保全処分(仮の引き渡し)
審判手続は非常に時間がかかるので、できれば先に子供の引き渡しを実現したいところです。
その場合、裁判所に対して仮の引き渡しを命ずる仮処分を申し立て、自分の主張に理由があることの疎明に成功すれば、裁判所から子供を仮に引き渡すよう仮処分命令が出されます。
仮処分命令がなされれば、相手に対して直接強制や間接強制の方法により、子供の引き渡しを強制することができます。
子の監護者指定の審判
子の監護者指定の審判は、離婚前の別居中にどちらの親が子供を監護するかを決定する手続きです。
基本的には子の引き渡し審判と同時に申し立てることになり、監護者として認められれば子供を取り戻すことができます。
面会交流
面会交流は、離婚後または離婚前の別居期間中に、子どもを養育・監護していない方の親が子どもと面会するための方法です。
子供の気持ちが相手に行ってしまっているなど、引き渡しを実現することが難しければ、相手に対して子供との面会交流を要求しましょう。
人身保護請求
相手によって監護されることが明白に子供の幸福に反するといえるほどの強い事情がある場合には、人身保護法に基づく人身保護請求が認められる場合があります。
しかし、よほどひどいケースでなければ認められにくいため、人身保護請求の制度はあまり利用されていません。
警察に相談して刑事告訴する
当事者間の話し合いがうまくいかない場合には、警察に相談して未成年者略取罪で刑事告訴するのも、相手にプレッシャーを与えるために有効な一つの手段です。
しかし、離婚前だと家庭内の問題として警察がなかなか動いてくれない可能性もあるため、事情を詳しく説明することが必要になるでしょう。
弁護士に相談する
このように、子供の連れ去りに対して取ることのできる対処法はさまざまです。
どのように対処すればよいかについては、弁護士に助言を求めるのが賢明でしょう。
弁護士は、離婚や親権の問題について依頼者を総合的にサポートしてくれるので、配偶者との関係を清算して新たなスタートを切るための大きな助けとなります。
ぜひ、お早めに弁護士にご相談ください。