夫婦仲が険悪になった場合は、離婚することも選択肢の一つですが、離婚前にひとまず別居することも検討すべきです。
今回は、離婚と別居どちらが得か、離婚しないで別居することにメリット・デメリットはあるのか、注意点はあるのか等を解説します。
離婚しないで別居すべき? 別居のメリット
すぐに離婚するのではなく、その前に別居を試みることには以下のメリットがあります。
- 裁判離婚が認められやすくなる
- 婚姻費用を請求できる
- 離婚すべきかどうかを冷静に考えられる
- DV・モラハラから逃れられる
裁判離婚が認められやすくなる
夫婦の合意に基づき離婚する場合、離婚理由は何でも構いません。
これに対して、相手が拒否する場合は離婚訴訟を提起して、離婚を認める判決を得る必要があります。離婚判決を得るためには、法定離婚事由(民法770条1項各号)が必要です。
不貞行為などの明確な法定離婚事由があれば、直ちに裁判離婚を請求できます。
そうでない場合は、長期間別居することが有力な対処法です。別居が長期間に及べば、婚姻関係が破綻したものとして「婚姻を継続し難い重大な事由」(同項5号)が認められやすくなります。
婚姻費用を請求できる
別居していても、婚姻関係が続いている間は、夫婦は婚姻費用の分担義務を負います(民法760条)。収入の高低や子どもとの同居などの事情を考慮して、いずれか一方が他方に対し、別居期間中の婚姻費用を支払わなければなりません。
離婚した後では、元配偶者から受け取れるのは子どもの養育費のみです。これに対して、離婚せずに別居している場合には、子どもの養育費に加えて、ご自身の生活費などについても婚姻費用として支払いを受けられます。
特に、配偶者より収入が少ない場合には、離婚せずに別居する方が経済的に有利となる可能性があります。
離婚すべきかどうかを冷静に考えられる
一度離婚が成立してしまうと、夫婦が元の鞘に収まるのは非常に困難です。反対に、離婚せずに別居している状態は、再び同居して婚姻生活を継続するという選択肢を残しているといえます。
同居している間は配偶者の嫌な部分ばかりが目に付くとしても、別居によって物理的に離れ、婚姻関係を冷静に見つめ直すと、婚姻を継続した方がよいという判断に至ることもあります。
離婚すべきかどうかを熟考する機会を確保するためには、離婚前に別居することも有力な選択肢といえるでしょう。
DV・モラハラから逃れられる
配偶者からDV(暴力)やモラハラ(精神的な嫌がらせ)を受けている場合には、速やかに別居することを検討すべきです。
DVやモラハラをする配偶者と同居していると、ご自身の精神・身体が大きなダメージを受けてしまいます。そのような状況を脱却するためにも、警察や支援機関(DVシェルターなど)に相談して、一日も早く配偶者と別居しましょう。
離婚しないで別居することのデメリット
離婚する前に配偶者と別居すると、以下のデメリットが生じることに注意が必要です。
- 婚姻費用が不払いになると生活が困窮する
- 財産を隠蔽される可能性がある
- 夫婦の心が離れてしまう
- 無断で別居することは「悪意の遺棄」に当たる可能性がある
- 子どもの「連れ去り別居」は違法の可能性がある
婚姻費用が不払いになると生活が困窮する
別居中の配偶者に対して婚姻費用を請求する権利があるとしても、実際には支払われず不払いとなってしまうケースもあります。
婚姻費用が不払いとなった場合、別居前よりも生活が困窮してしまう可能性があります。
財産を隠蔽される可能性がある
将来的に配偶者と離婚する場合は、夫婦の共有財産について財産分与を行うことになります(民法768条)。
夫婦共有名義の財産だけでなく、夫婦のいずれか一方が単独名義で所有する財産も、婚姻中に取得したものであれば、原則として財産分与の対象となります(民法762条2項)。
したがって、婚姻中の収入が配偶者より少ない場合は、財産分与を受ける権利があります。
しかし別居をきっかけに、配偶者の財産状況がわからなくなってしまうケースがあります。後に離婚を決意して、財産分与を請求しようと思っても、配偶者の財産がわからないと正しい金額を請求できなくなってしまうので要注意です。
夫婦の心が離れてしまう
別居することにより、お互いに相手のいない生活が自然になり、結果的に夫婦の心が離れてしまう可能性があります。
配偶者との関係性をぜひとも修復したいと考えている場合は、別居すると関係修復が遠のいてしまう可能性があるのでご注意ください。
無断で別居することは「悪意の遺棄」に当たる可能性がある
夫婦には互いに同居義務があり(民法752条)、正当な理由なく無断で別居することは違法となります。
無断別居は「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)に該当し、配偶者による裁判離婚の請求が認められる可能性があります。さらに、ご自身が「有責配偶者」となることにより、ご自身による裁判離婚の請求が認められなくなる可能性が高いので注意が必要です。
ただし、DVやモラハラを受けているなどの正当な理由がある場合には、配偶者の許可を得ずに別居して構いません。このような場合には、むしろ積極的に別居を検討すべきです。
子どもの「連れ去り別居」は違法の可能性がある
子どもの親権を獲得したいために、配偶者に無断で子どもを連れて別居する例が見られます(いわゆる「連れ去り別居」)。
たしかに、子どもと関わった時間が配偶者よりも長くなれば、親権争いにおいて有利です。しかし、連れ去り別居は未成年者略取罪に当たる場合があるほか、配偶者から慰謝料請求を受けるなど、トラブルの原因になる可能性があります。
DVやモラハラを受けているなどのやむを得ない場合を除き、別居後に子どもがどちらと一緒に暮らすかについては、夫婦で話し合って決めましょう。
離婚前に別居する場合の注意点
配偶者と離婚する前に別居する場合は、以下の各点に注意してご対応ください。
- 法定離婚事由の証拠を確保する
- 財産分与すべき財産を調査・把握する
- 別居中の収入源を確保する
法定離婚事由の証拠を確保する
不貞行為・DV・モラハラなど、法定離婚事由に該当し得る事情がある場合には、別居前に証拠を確保しておきましょう。
別居すると、法定離婚事由の証拠を確保することが難しくなるからです。
財産分与すべき財産を調査・把握する
別居後は配偶者の財産を把握することが難しくなるので、財産分与すべき配偶者の財産については、できる限り別居前の段階で調べておきましょう。
配偶者の給与明細・確定申告書・通帳などがある場合には、コピーをとっておくことをおすすめいたします。
別居中の収入源を確保する
別居期間中は、基本的にご自身の収入だけで生活しなければなりません。
生活費などの不足が予想される場合には、節約して支出を減らすことに加え、転職や副業などによって収入を増やすことを目指しましょう。特に専業主婦(主夫)やパート・アルバイトの方は、別居前の段階で安定した職業に就く目処を立てることが望ましいです。
まとめ
離婚前に別居することには単にどちらが得になるかどうかの問題ではなく、メリット・デメリットの両面があるため、別居すべきか否かについては、家庭の状況に応じて適切にご判断ください。別居・離婚に関する対応について、判断に迷う部分がある場合は弁護士へのご相談をおすすめいたします。
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